富野由悠季が断言「アニメブームは今が頂点」 デジタル化、いい作業環境が作品性を劣化させる
東洋経済オンライン / 2023年12月17日 7時20分
富野由悠季(とみの・よしゆき)/アニメーション監督。1941年生まれ。64年日本大学芸術学部映画学科卒業。数多くのテレビアニメの演出を経て、79年に『機動戦士ガンダム』の原作者・総監督となり、ガンダムブームを生み出した。小説家としても『リーンの翼』など著書多数(撮影:梅谷秀司)
鳴動する政治。終息しない戦乱。乱高下する市況。その先にあるのは活況か、暗転か――。
『週刊東洋経済』12月23-30日 新春合併特大号の特集は「2024年大予測」。世界と日本の行方を総展望する。
過去10年で市場は2倍に──。盛り上がりが続く日本のアニメ産業の現状を、50年近く業界を牽引してきた“巨匠”はどう見ているのか。「ガンダム」の生みの親、富野由悠季監督が語った。
──かつてサブカルチャーだったアニメは、今や国民的文化です。
昔は肩身が狭かった。ぼくは、住宅ローンを心配しながら40年以上、フリーランスとして業界に身を置いてきた人間でね。
思い出すのは毎年度の確定申告。税務署に行くたび、アニメの仕事は何かということを職員に説明しなければならなかった。「映画のチケット代を経費に認めてくれ」「なぜ?」「映画を見なかったらアニメの仕事にならないから」「は?アニメの仕事って何?」。こんな問答を10年近くさせられてきた。
今が頂点となったら、これから先はどん詰まり
でも今は、税務署から小ばかにされることもない。そんな実感からいうと、今の業界の社会的地位向上は、とてもありがたいこと。
アニメの産業が隆盛期なのは確かだろう。しかし、今後もこの状況が続くかどうかは、わからない。あともう5~6年は盛り上がりが続くかもしれないけれど、そこまでで、衰微していくでしょう。
小説でも映画でも同じことだが、時代の波に伴って必ず生じる盛衰というものがある。作品は、心を持つ人間が楽しむものだから、世の中の環境が変われば、文化の様相も変わってきて、人の心性も変わっていく。だから、今が頂点となったら、これから先はどん詰まり。
アニメ自体は、なくならない。ただ、今以上に優れた作品が出てくるかというと難しいと思える。手描きのアニメからデジタルに切り替わった後のディズニーの作品は、「え?」と落胆するようなものばかりになったが、そういう再生産になっていくから。
宮崎駿監督アニメのような作品が、古典的な作品として、今後も見られ続けていくと思う。
「ガンダム」シリーズも歴史に残るのではないかって? うぬぼれるつもりはないが、1行ぐらいは記されるかもしれない。
でも実をいうと、「ガンダム」という作品にぼくが込めた、社会論とか戦争論といった根幹的なメッセージは、ガンダムという巨大ロボットの造形に邪魔をされ、思うように伝わっていないように感じる。子どもは恐竜が好き、巨大ロボットも好き。その嗜好性の延長に「ガンダム」の人気がある。不本意なことに、視野の狭いメカフェチに支えられてきた部分がある。作品単体でみたら『ちびまる子ちゃん』『ワンピース』の人気にはかないませんね。
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