ケインズが描いた平和/戦争と経済のしくみ 二度の世界大戦を経て築かれた国際経済の基盤
東洋経済オンライン / 2024年1月10日 9時0分
戦争の時代に足を踏み入れた今、国際経済の未来をどのように考えるべきなのか。
1919年、第一次世界大戦終戦直後に同様の問題に立ち向かった人物が、20世紀最高の経済学者とも称されるジョン・メイナード・ケインズである。
彼の国際経済観を描いた『平和の経済的帰結』(1919)は、二度の大戦の戦後処理と現代まで続く国際経済の枠組みの発端となった書であり、これからの世界秩序を考える、最良のバイブルとも言える。
本記事では、『新訳 平和の経済的帰結』を翻訳した山形浩生氏による「訳者解説」を一部抜粋・編集して、現代の国際経済の枠組みがいかなる思想のもと築かれたかを解説する。
戦勝国と敗戦国の相互依存
ケインズは経済学者だが、官僚でもある。そしてその官僚時代に、第一次世界大戦のパリ講和会議にイギリス代表団の一員として参加し、そこでの議論の方向性および最終的にまとまりそうなヴェルサイユ条約のあまりのひどさに絶望し、辞表をたたきつけて、即座に本書を書き上げた。そしてそれがベストセラーとなり、ケインズの世間的な知名度をいちやく押し上げた。
本書におけるケインズの基本的な立場は、とにかくヨーロッパの復興を何よりも優先しなくてはならない、ということだ。そして戦争前のヨーロッパは、人口、生産、消費、すべてがドイツ中心となっていた。そしてそれを支えるために貿易が必須となり、そのための輸送手段もドイツが中心だ。それを使ってアメリカとロシア(および各地の植民地)から食糧を輸入することで、人口増も支えられていた。
重要なのは、このグローバル化した経済社会の相互依存についての視点だ。この世界構造は、各国がほぼ閉じた独立経済となっていた、それ以前の状況とはまったく違っている。以前は、相手を完全に別の存在として、分捕れるだけ分捕ればよかった。それが少なくとも戦勝国にとっては最も利益となった。
だがもうそういう感覚でやっていてはいけない。ドイツをつぶせば、自分にとっての資源供給国でもあり、工業製品の供給国でもあり、そして最大の市場でもあった経済が消え、自分の首を絞める結果になる。だから戦後処理──賠償およびその後の仕組み構築──を考えるにあたっても、こうした経済全体の仕組みの変化を踏まえた対応が必須となる。
ナチス台頭と第二次世界大戦を予見
本書は当時のベストセラーとなった。中身の評価よりは、たぶん政府および条約交渉の代表団のトップ高官が、まさにほぼ現在進行形の会議の内幕をぶちまけた内部告発書、内幕暴露本として受け取られたのだろうという邪推は成り立つ。
この記事に関連するニュース
-
NATOがハンガリーを「世界大戦に引きずり込んでいる」 オルバン首相
AFPBB News / 2024年6月1日 14時12分
-
「命令に従った」は通用しない 問われる個人としての戦犯~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#44
RKB毎日放送 / 2024年5月31日 22時15分
-
戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月23日 10時27分
-
【1949(昭和24)年5月23日】ドイツ連邦共和国が誕生
トウシル / 2024年5月23日 7時30分
-
「原爆が戦争止めた」は“神話”=根拠乏しい米国防長官見解―アジアの核拡散に歯止めを
Record China / 2024年5月14日 6時30分
ランキング
-
1大阪・泉南市中1自殺、教育長「生徒と信頼関係が築けなかった」謝罪
産経ニュース / 2024年6月3日 20時39分
-
2空自で男性自殺、国に100万円の賠償命令…パワハラ相談に適切に対応せず安全配慮義務に違反
読売新聞 / 2024年6月3日 17時50分
-
3セクシー田中さん問題、人気ドラマP「怖がっちゃいけない。安全にドラマを作る方法なんてない」... 日テレ報告書の「有識者コメント」に漫画家異論
J-CASTニュース / 2024年6月3日 16時49分
-
4「空き缶にハイター入れた」 川崎の京急線車内で爆発 神奈川県警、20代男性を事情聴取
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年6月3日 23時40分
-
5新富裕層「インカムリッチ」はどんな人? 世帯年収1500万円、投資リテラシー抜群 「パワーカップル」との違いは
J-CASTニュース / 2024年6月3日 20時7分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください