1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

M-1誕生ストーリーで学ぶ、「需要創造の極意」 経営学者が斬り込む『M-1はじめました。』

東洋経済オンライン / 2024年1月13日 11時30分

楠木:アイドルのコンサートのようだったのですね。要するに、表面的には需要は薄くなっている。ところが、漫才師全員に1人ずつ面談すると、供給側はみんな本音では漫才がしたいと思っていた。例えば、西川のりお・上方よしおは、漫才が一番楽しいし、漫才で食えたら幸せだと。キングコングもキャーキャーともてはやされても嬉しくなくて、漫才がしたいと思っていた。

谷:そう言われて、ほんまかいなという感じで。

楠木:つまり、漫才には、それだけやる側にとってもほかのジャンルと違った魅力がある。それは何でしょうか。

谷:たぶん、みんな関西出身なので、子どもの頃から、横山やすし・西川きよし、オール阪神・巨人などを見て、好きだったのでしょう。たとえば、中川家は新聞販売店から招待券をもらって、兄弟2人で劇場に観に来て、前に座ってやじをとばしていたそうです。

漫才はコントやトークよりも難しい

楠木:僕がこの本で意外だったのが、漫才の特殊性です。ほかのコントやトークよりも難しい。コントは小道具が使えるけれど、漫才は言葉だけ。しかも、短い時間で自分たちで世界観をつくって、そこに観客に入ってもらわないといけない。

谷:そうですね。コントは、白衣を着て聴診器をつければ、お医者さんだとわかる。漫才はそれをつくらないといけないので。その代わり、すぐに違う世界に飛べるのです。そこは言葉だけでやる強みでもある。しかし、新人や若手にとって、その世界に持っていくことは難しいし、間を合わせるために、稽古を何度も重ねないとできるようにならない。

楠木:僕は、すぐに役立つものほど、すぐに役立たなくなるのが、世の中の鉄則だと思っています。他のジャンルよりも難しい分、見ている側にとってはおもしろいし、そのおもしろさが長続きする。芸としての賞味期限が長くなる。そのあたりが完成された究極の笑いの形態で、芸人が漫才をやりたいと思うほど、本格的な仕事ではないかと思うのですが。

谷:どうなんでしょうね。子どもの頃に憧れた漫才師や漫才が前提にあって、取っかかりとしてコントをしていたとは思います。

楠木:意外と供給側はやりたい気持ちがあり、クオリティも高い。仲間も増やしてもらい、いろいろ試行錯誤しながら、プロジェクトを進めて、M-1コンテストのアイデアに帰着します。M-1のほかには、どんなアプローチをお考えになったのでしょうか。

谷:「漫才大計画」というイベントでは、吉本新喜劇の劇場でお客さんに残ってもらい、無料で漫才をしました。ただ、前座で漫才やアクロバットみたいなものがあり、新喜劇を観て3時間。もうお腹いっぱいで、「この後やりますから残ってください」と言われても、もうええわと帰ってしまう人が多くて。858人の劇場に100人くらいで、もちろんチケットも売れない。「base漫才計画」は小さい小屋なので、お客さんが入りましたが。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください