成長した若宮、うつくしいが故に漂う「不気味さ」 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・桐壺④
東洋経済オンライン / 2024年1月14日 16時0分
輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。
紫式部によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』。光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵が描かれている。
この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第1帖「桐壺(きりつぼ)」を全6回でお送りする。
光源氏の父となる帝の寵愛をひとりじめにした桐壺更衣。気苦労が絶えなかった桐壺は病に倒れ、ついに息を引きとる。聡明で、美しく成長した源氏は、亡き母の面影を追うように、一人の女性に思いを募らせていき……。
「桐壺」を最初から読む:愛されれば愛されるだけ増えた「その女」の気苦労
※「著者フォロー」をすると、連載の新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます。
桐壺 光をまとって生まれた皇子
輝くばかりにうつくしいその皇子の、光君という名は、
高麗の人相見がつけたということです。
いたわしい帝の姿
命婦(みょうぶ)が宮中に帰ると、帝は眠ることもできなかったらしく、うつくしい盛りの庭を眺めるふうをよそおって、思いやり深い女房四、五人と、静かに何か語らっている。そんないたわしい帝の姿を見るにつけ、命婦も胸ふさがれるような思いになる。宇多(うだ)の帝、後の亭子院(ていじいん)が直々に描かせ、伊勢(いせ)、貫之(つらゆき)といった歌人に詠ませた和歌や漢詩ものった長恨歌(ちょうごんか)の巻物を、このところ帝はずっと眺めては、愛する人に死に別れた悲しみを詠んだ歌や詩について語っている。
戻った命婦に、帝はじつにこまごまと母君の様子を尋ねる。命婦は、目にしたこと、会話に上ったことなどを静かに語り、母君からの返事を渡す。帝が文を広げると、このように書かれている。
「まことに畏れ多いお言葉をどのようにいただいたらよろしいのか、わかりません。このようなありがたいお言葉をいただきましても、私の心の闇は晴れず、ただ乱れるばかりでございます。
荒き風ふせぎしかげの枯れしより小萩(こはぎ)がうへぞ静心(しづこころ)なき
(荒々しい風を防いでいた木が枯れてしまい、その木が守っていた小萩、若宮が心配で、気が休まりません)」
と、取り乱したような歌も添えられているが、心を静めることもできないのだろうと帝は大目に見る。こんなふうに取り乱した姿を自分は見せまいと、帝は気を引き締めるけれど、どうしても平静ではいられない。考えまいとしても、女をはじめて見た時のことがあれこれと自然に浮かんできてしまう。生きている時は、かたときも離れることができなかったのに、今こうしてひとりでいても月日が過ぎていくことが、信じられない思いである。
どんな花の色にも
この記事に関連するニュース
-
「逃れようのない宿縁」、光君と藤壺が犯した大罪 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫⑥
東洋経済オンライン / 2024年5月19日 16時0分
-
次第に気持ちが離れる、光源氏の夫婦関係の複雑 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫⑤
東洋経済オンライン / 2024年5月12日 16時0分
-
「少女への思い」語る光君と、聞き入れぬ者の逡巡 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫④
東洋経済オンライン / 2024年5月5日 16時0分
-
光君が「まだ年端もいかぬ少女」の虜になった事情 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫②
東洋経済オンライン / 2024年4月22日 14時0分
-
光君が「まだ年端もいかぬ少女」の虜になった事情 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫②
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 17時0分
ランキング
-
1ドライバー不足で修学旅行の貸切バス手配が突然キャンセルに 近畿日本ツーリストは謝罪「総動員して修学旅行の実施に努める」
ねとらぼ / 2024年5月17日 16時5分
-
2上川外相「うまずして」発言 SNSで「曲解」批判相次ぐ 専門家「状況を考慮する必要」
産経ニュース / 2024年5月19日 18時31分
-
3「家を借りられない」「老人ホームにも入れない」身寄りのない“孤独な高齢者”が増加する日本を待ち受ける残酷な未来とは
日刊SPA! / 2024年5月20日 8時52分
-
4「ガラケーの使い方が分からない…」スマホ世代の新入社員が訪問先で“やらかした”大騒動
日刊SPA! / 2024年5月19日 15時54分
-
5白髪は禿げないのは本当? 目立たせないドライヤー活用法はあるのか?【プロに学ぶ「白髪染め」「白髪のぼかし」】
日刊ゲンダイ ヘルスケア / 2024年5月20日 9時26分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください