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国際経済は戦争を回避しつつ秩序を取り戻せるか ケインズ著『新訳 平和の経済的帰結』(書評)

東洋経済オンライン / 2024年1月17日 9時0分

ちなみに、本書を出版した段階で、ケインズはいまだ経済学の体系書をものしていない。経済学のインナーサークルではそれなりに知られていたケインズが、世界的な経済学者と見なされるようになるのは、本書を出版して以後のことである。1920年代には数々の時事論文で注目を集め、1930年代には『貨幣論』や『雇用、利子および貨幣の一般理論』で経済学の歴史に不朽の名声を刻み、第二次大戦後のブレトンウッズ会議では戦後経済秩序の設計者の一人として獅子奮迅の活躍をすることになる。

そして没後から80年近く経った今でも、現代的な諸課題への考察を先取りしていた経済学者として、墓場から何度も呼び戻されている。この偉大な経済学者の名声を、最初に確立することになった『平和の経済的帰結』が、第一次大戦の勃発から110年目にあたる今年、山形浩生氏の読みやすく清新な日本語訳によって現代に蘇ることになった。

訳者解説にもあるとおり、本書の出版は2024年の現在において、きわめて時宜に適ったものと言える。ロシアのウクライナ侵攻はいまだ帰趨がはっきりしないまま、泥沼の状況を呈している。イスラエルのハマス掃討作戦は、中東情勢のさらなる混乱を予示している。アメリカと中国の衝突はエスカレートを続け、時あたかも第一次大戦前夜を思わせるものとなっている。

本書の第2章でケインズも指摘しているように、第一次大戦の前まで、世界経済は未曾有のグローバル化の時代を迎えていた。

「1914年8月に終わりを迎えたその時代は、人類の経済的進歩において、何と驚異的な時期であったことだろう…ロンドンの住民は、ベッドで朝の紅茶をすすりながら、電話一本で世界中の各種産物を、いくらでも欲しいだけ注文できたし、その注文品はほぼ確実に、ほどなく自分の玄関に配達された。同時にそれと同じ手段によって、世界のどんな地域にある天然資源や新事業にでも、自分の資産を投資できたし、その将来的な果実や利得の分け前も、何の努力も手間もかけずに手に入った。」

もちろん、当時から大国間の対立はあった。各地でナショナリズムが台頭し、軍事的な衝突も繰り返されていた。「だが、そうしたものは、日々の新聞に載る娯楽の種でしかなく、社会経済の通常の方向性にはほとんど影響を与えないように見えた。社会経済の国際化は、実際問題としてほぼ完成したと思われていたのだ」。ケインズのこのフレーズは、第一次大戦前夜の世界経済の状況を記述したものとして、今も頻繁に引用される。

危うい均衡の上に成り立つグローバル経済

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