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「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

東洋経済オンライン / 2024年1月22日 11時0分

また、これも3年半ほどにわたって委員として参加する機会があったのだが、国土審議会での議論を踏まえて昨年7月に閣議決定された「第三次国土形成計画」においても、「自然資本」や「グリーン国土」といった言葉ないしコンセプトが重要な理念として掲げられた。国土計画あるいは国土交通というと一般には社会インフラないし「人工資本」、“開発”といったイメージがなお強いが、そうした文脈でも「自然資本」や生態系の保全というテーマが重要な意味をもつようになっているわけである。

露わになった「生物多様性や生態系の危機」

ではこのように「ネイチャーポジティブ」「自然資本」といった概念とともに、生物多様性や生態系をめぐるテーマへの関心が近年特に高まっている背景は何か。

端的に言えば、地球の生態系が危機的な状況に陥っていることが基本にあると言えるだろう。

たとえば、スウェーデンの研究者ヨハン・ロックストロームらが2009年に公表し、現在では広く認知されるに至っている「プラネタリー・バウンダリー」の研究では、地球環境に関わる9つの領域が抽出され各領域の現在の地球の状況が定量的に示されているが、その危機の度合いがもっとも大きく“赤信号”になっているのは「遺伝的多様性」と「(窒素やリンの)生化学的フロー」である。つまり生物多様性や生態系に関する状況が、(気候変動やオゾン層破壊などよりも)深刻なものになっているのである。

この場合、「生物多様性や生態系の危機」といってもなかなか実感がわかないという人も多いと思われるが、実はこのことを私たちにもっとも明瞭な形で突きつけたのは、他でもなく2020年からの新型コロナ・パンデミックだったと言えるだろう。

ここで「生態系の危機」と「新型コロナ」という二者はにわかには結びつかないかもしれないが、新型コロナを含む「人獣共通感染症」(人と動物に共通の感染症)が近時増加していることの背景には、実は森林の減少が要因として働いていることが近年の研究によって示されるようになった。要するに、森林が減少することでウイルスを保有する動物の密度が増加し、さらにそれがいわば森林から溢れ出し人間に感染してパンデミックに至るということだ。

実際、国連の機関である国連環境計画(UNEP)は、2020年に出した文書において、「人獣共通感染症が発生する原動力となるのは、たいていの場合人間活動の結果として生まれる、環境の変化である」と指摘している(“Six Nature Facts related to Coronaviruses”)。さらに同機関は、『次のパンデミックを防ぐ――人獣共通感染症そしていかに伝播の連鎖を断ち切るか』という詳細な報告書を公表し、生物多様性ないし生態系の危機と新型コロナとの関連性や対応のあり方についてさまざまな角度から論じているのである。 

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