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「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

東洋経済オンライン / 2024年1月22日 11時0分

「資本の大部分は自然からもらうのであって、人間が造りだすのではない。ところが、人はそれを資本と認めようとさえしない。そして、この自然という資本が今日驚くべき勢いで使い捨てられている」(前掲書、強調引用者)

経済社会の「価値」の源泉は「自然」

私たちの経済社会の「価値」の源泉は究極的には「自然」にあるという把握であり、ある意味で「自然資本」というコンセプトをめぐる本質的なポイントは、こうしたシューマッハーの議論の中で大方示されていると言ってよいだろう。

シューマッハーに関してもう1点付け加えておきたいのは、彼は以上のような話題を「生命」というテーマにもつなげて考えていた点だ。たとえばシューマッハーの文章の中に次のような印象的な一節がある。

「われわれが所得だから浪費していいと信じこんでいる『自然という資本』の中で、化石燃料はその一部にすぎず、いちばん重要なものでもない。それを使いつくしてしまえば、文明の存続が危うくなる。だが、われわれを取り巻く生きた自然という資本を無駄遣いすると、危機に瀕するのは生命そのものである」(前掲書、強調引用者)

先ほど、森林の減少など生態系の劣化が新型コロナ・パンデミックの背景にあり、それは生態系の危機が人間の健康や生命の危機に至ったことを意味すると述べたが、シューマッハーはこうした点をすでに洞察していたとも言えるだろう(ちなみに以上のようなシューマッハーの考え方はイギリスに拠点を置く「ニューエコノミックス財団」や「シューマッハーカレッジ」において継承され展開している)。

ハーマン・デイリーとエコロジー経済学

シューマッハーと並び、もっとも早い時期から「自然資本」の考え方を明確な形で提起した人物として、定常経済論(steady-state economy)で知られ、また「エコロジー経済学(ecological economics)」の体系化に努めたアメリカの経済学者であるハーマン・デイリー(1938-2022)が挙げられる。

エコロジー経済学と、“主流”の(新古典派的な)経済学とのもっとも大きな相違は次の点にある。すなわち後者が「市場経済」から出発し、さまざまな環境問題をいわゆる「外部性」の問題としてとらえるのに対し、デイリーが唱えるエコロジー経済学は、むしろ最初にあるのは「自然」であり市場経済はその一部分にすぎないととらえるのであり、ここには根本的な世界観ないし自然観の(“真逆”とも言える)違いがあると言える。

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