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「グローバル・ローカル・国民国家」という難問 「自由と平等の衝突」の解決に必要な「惻隠の心」

東洋経済オンライン / 2024年1月24日 9時0分

著者は自由と平等は必ずぶつかると述べます。

平等というのは、公権力が市民の自由に介入し、強者の権利を制限し、富者の富を税金として徴収し、それによって弱者を保護し、貧者に分配することによってしか実現しません。市民を自由に競争させていたら、そのうち平等が実現するということは絶対に起きません。公権力による市民的自由の制限なしに平等は実現しない。そして、それは憲法制定過程でのフェデラリストと州権派の対立で見たように、州権の保持を望む人たちが最も忌み嫌っていたことでした。(128頁)

繰り返しますが、アメリカの国家観と日本の国家観はまったく異なります。日本の保守はアメリカに追随することで国民を守ることができたうちは「保守だった」といえるかもしれませんが、現在はアメリカ的価値観を内在化させ、利益を追求する自由を何よりも優先するようになってしまった。

小泉純一郎元首相が「私が、小泉が、自民党をぶっ壊します!」といってぶっ壊したのは、平等を志向する日本本来の保守としての自民党であり、ぶっ壊れたおかげで利益の追求を自由にできるようになった。その結果が、2000年代以降の景気の低迷した状況となって表れています。

グローバリズムを経て日本の保守がいなくなり、誰もが自分の利益を追求することを「自由」と呼んだ現在、日本社会における格差の拡大は進行しています。

本来、日本人にとっての国家は格差が広がらないために、平等を志向するための存在のはずです。権力者が自己利益を追求するようになり、国民の安全を守らなくなった現代において、どのようにすれば「平等」を希求する社会をつくることができるのか。

「友愛」のための「手触り」

ここで著者は自由、平等に続く第三項としての「友愛」の重要性を説きます。それは孟子が言うところの「惻隠の心」であり、さらに中国共産党の軍紀にも記されてあったといいます。1937年時点の赤軍の実相を伝える、エドガー・スノウ『中国の赤い星』から引用しています。

(1)人家を離れる時には、すべての戸をもとどおりにすること
(2)自分の寝た藁莚は巻いてかえすこと
(3)人民に対して礼儀を厚くし、丁寧にし、できるだけ彼らを助けること
(4)借りたものはすべて返却すること
(5)こわしたものはすべて弁償する
(6)農民とのすべての取引にあたって誠実であること
   もともとここまでの六項目でしたが、林彪がさらに二つを付け加えました。
(7)買ったものにはすべて代金を払うこと
(8)衛生を重んじ、特に便所を建てる場合には人家から十分な距離を離すこと
(中略)
みなさんに感じて欲しいのは、この革命軍規律の「手触りのやさしさ」です。「礼儀」とか「弁償」とか「誠実」とかいうのは頭の中で考えても出てくる言葉ですが、赤軍兵士に一夜の宿を貸したせいで、農民たちが感じる「寒さ」や「臭気」といった生理的不快まで気づかうのは、農民たちのごく身近にいて起居を共にした人間からしか出てこない言葉です。(213-214頁)

「農民たちのごく身近にいて起居を共にした人間からしか出てこない言葉」こそが、「手触り」を感じる言葉なのだと思います。そして自由と平等という拮抗する理念を具体化し、現実化するためには「手触りのある友愛」が不可欠なのです。

国民国家の再生は「戦前回帰」をすればいいということではありません。脳内だけで考えているようなバーチャルな「強い日本」を取り戻すのではなく、日本社会に生きる困難を抱える人びとが温かい食事が食べられて、安心しながら眠りにつけて、自分の痛みを共感してくれる人たちとの対話を通じて、人びとを守ってくれる日本を実現するのだと思っています。

手触りを感じるために、普遍的な理念を背に現場に赴くこと。ここからしか実現しないのだろうと思います。

青木 真兵:「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士

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