信玄の「赤備え」無敵伝説は"イメージ戦術"だった 大久保利通も「鳥羽・伏見の戦い」で用いた手法
東洋経済オンライン / 2024年2月12日 18時0分
日本人は「戦略」(政治やビジネスなどを実行するための計画・方法)が好きな民族のように思われます。その割には、「戦術」(争いに勝つための方法)を軽視する傾向が強い。
しかし、当初に立てた「戦略」を遂行するために、刻一刻と移り変わる戦局にあって、積み重ねる作戦が「戦術」です。現場で作戦を遂行するリーダーに、なくてはならない能力といっていいでしょう。
戦術を学べば、今後、新規プロジェクトなどを進めるときに、間違いなく成功の確率が上がるはずです。戦い方、物事の見方、チームワーク活性化の必要性などについて、歴史家で作家の加来耕三氏の新刊『リーダーは「戦略」よりも「戦術」を鍛えなさい』をもとに、3回にわたり解説します(今回は2回目)。
戦う前に相手の戦意を喪失させる
戦国時代、名前を聞くだけで相手を震え上がらせた集団がいました。
「武田の赤備え」──武者の甲冑や鎧、刀の鞘、鞍や鐙などの馬具に至るまで、すべてを朱一色に染めた武田信玄の武士団です。戦場に赤備えの騎馬隊が現れると、敵は恐怖に震え、刃を交えるどころか我先に逃げ出したという話もあるほどです。
しかし、この無敵伝説は、武田信玄の事前につくり上げたイメージ戦術の賜物でした。
実際、赤備えの部隊は武田軍の中でも精鋭を選抜して結成されており、合戦でも強かったといわれています。朱色は戦場でも目立つため、朱色=強いというイメージが刷り込まれていき、戦場に現れるだけで、ついには相手は逃げ出すようになったのです。
信玄はこのイメージをうまく利用して、戦わずして勝つ戦術を確立したのでした。
スポーツにおいても、このピッチャーが出てきたらもう打てないとか、ビジネスでもこの会社の人たちはきわめて優秀だから太刀打ちできないとか、知らず知らずのうちにイメージに惑わされ、戦う前に勝負がついている場面はよくあるものです。
恐れるほうではなく、恐れられる側に回るにはどうしたらいいのでしょうか?
「錦の御旗」を立てて幕府軍を撃退
イメージをうまく利用して相手の戦意を喪失させた例は、幕末にもありました。
幕末に、旧幕府軍と薩摩藩兵が激突したのが鳥羽・伏見の戦いです。旧幕府の連合軍1万5000に対して、薩摩藩兵はわずかに3000人であり、5倍の敵を相手に勝つためにどうすればいいか、薩摩藩の大久保利通は戦術を練りました。
初日の戦闘では、新式のミニエー銃を装備した旧幕府軍が優勢な場面もあり、薩摩藩兵には形勢逆転に向けた、さらなる策が必要でした。
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