「兵士の命優先」で解任されたウクライナ軍総司令官 侵攻から丸2年、ウクライナ大統領が思い知った現実
東洋経済オンライン / 2024年2月14日 10時0分
ロシアによるウクライナ侵攻から満2年を間近に控えた2024年2月上旬、ゼレンスキー大統領が大きな決断を下した。ワレリー・ザルジニー・ウクライナ軍総司令官の解任だ。ここでは、この解任の背景だけでなく、今回の侵攻が持つ戦争史的な意味も考えてみた。
ザルジニー氏解任と、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官を充てる今回の軍トップ人事は異例な形で発表された。この種の重要発表は昼間に行われるのが通例だが、キーウ時間の2月8日夕方に、人事に関する大統領令をゼレンスキー氏が公表したのだ。なぜか。
大統領との「不仲説」を否定
人事発表に当たり、ウクライナ政府が非常に気にしていたのは、ワシントンの反応だったからだ。解任自体は事前に報道もあり、予期されていた事ではある。しかし、発表時間はアメリカ東部時間では2月8日昼に当たる。
当局者がオフィスにいる時間帯に入念に準備した一連の声明文を出し、読んでもらうことで、総司令官解任というショッキングな展開への先行き不安感を払拭し、アメリカ政府や議会の理解を得たいとの思惑があった。
とくにアメリカ議会では、キーウにとって緊急に必要なウクライナへの支援を含む予算案の審議が共和党の反対で難航している最中であり、アメリカの軍事支援に反対する意見が増える事態を避けたいところだった。
さらに声明文には、ゼレンスキー政権のもう1つの狙いが込められていた。今回の解任について、国民に人気の高いザルジニー氏が将来の大統領選で政治的ライバルになることを恐れてゼレンスキー氏が排除した、との内外での一部観測を否定することだ。
こうした観測が出た背景には、ザルジニー氏への国民の期待感の高まりがある。2023年6月に始まった反攻作戦が不発に終わったものの、それでもザルジニー氏の人気は高まった。その理由の1つが西側流の軍事教育を身に付けた同氏の近代的作戦指揮だ。
50歳のザルジニー氏は、旧ソ連からウクライナが独立した後に軍事教育を受けた世代出身だ。北大西洋条約機構(NATO)に派遣され、西側の軍事訓練を受けた留学組の第1期生となる。兵士の犠牲を極力少なくしようとする流儀が兵士本人や兵士家族から支持されていた。
もう1つの要因は、明るい人柄。周囲からの人望があった。2023年12月、国際社会学研究所(キーウ)による世論調査では、ザルジニー氏を「信頼する」との回答が88%に上った。一方でゼレンスキー氏を「信頼する」は62%で、2022年末の84%から大幅に下落したという。
反攻作戦の立て直しが理由
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