「兵士の命優先」で解任されたウクライナ軍総司令官 侵攻から丸2年、ウクライナ大統領が思い知った現実
東洋経済オンライン / 2024年2月14日 10時0分
ゼレンスキー大統領としては、ロシア軍の攻勢に耐え、現在の戦線を守って維持する、いわいる「戦略的防衛」のみで2024年を終える気持ちはない。
筆者は前回の「バイデンの存在薄くなる3年目のウクライナ戦争」(2024年1月30日付)で、「外交面でゼレンスキー政権の最大の目標は、2024年7月のワシントンでのNATO首脳会議で、ウクライナとの間でNATO加盟交渉に入ることが決まることだ」と書いた。
大統領としては、このサミットに向けウクライナ軍が攻勢を展開し大きな成果を上げることを目指しているのだ。ウクライナ軍の反攻能力健在を誇示、NATO加盟交渉入りの合意達成に向け弾みをつける政治的効果を狙っている。
しかしキーウの軍事筋によると、驚くべきことが起きた。2024年1月末、軍総司令官としてこの攻勢を指揮することにザルジニー氏は消極的態度を示したという。西側からの武器が揃うまでは、戦争はできないと主張した。
これが今回の解任の最終的引き金になったのだ。この春には、ウクライナ軍待望の戦闘機F16の第1陣が到着する見込みだが、武器がいつ揃うのかは不明だ。大統領としては、到着前であっても攻勢を開始することは可能とみている。
2024年のウクライナ軍の戦略を巡っては、アメリカ政府がウクライナに対し、防御専念を求めていると一部アメリカのメディアが報道している。しかし、軍事筋はこれに関連して「そもそもバイデン政権も攻勢に出ること自体には反対していない」と強調する。
しかしザルジニー氏は、いたずらに攻勢に出れば戦死者が増えることに懸念を示した。このため、ゼレンスキー政権として「今年戦争をできる司令官を採用した」という。
冒頭に記したように、大統領はシルスキー陸軍司令官を新たな総司令官に任命したが、このシルスキー氏こそ「今年の戦争ができる司令官」なのだ。
「今年の戦争ができる司令官」
同氏は58歳。ソ連時代に軍事教育を受け、西側への留学経験もない旧ソ連軍色の濃い司令官だ。2022年秋にウクライナ軍は東北部ハリコフ州の要衝イジュムを奇襲によってあっという間に陥落させたが、この巧みな作戦を指揮したのが東部を仕切る司令官のシルスキー氏だった。
一方で2023年の東部要衝バフムトを巡る激戦では、ウクライナ軍側に多数の戦死者を出すことを厭わなかったとして部下から批判が出た。戦死者を出すことを嫌がるザルジニー氏とは対照的だ。
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