ウクライナ戦争で露わになったEU内の格差問題 ヨーロッパの農家はなぜ抗議活動を行うのか
東洋経済オンライン / 2024年2月16日 8時0分
2024年1月、ドイツやフランス、オランダ、ベルギーなどで、農家のトラクターが大量に大都市近郊に出現し、道路を塞いだ。
つい最近まで、イエロージャケットによる都市でのデモ行進、アンチ・サニテール運動(反衛生運動)による抗議など、過激な活動はほぼ都市部の住民層に限られていたが、今回は地方の個人農家が抗議運動に参加した。
1月といえば、パリでは農業見本市が開かれ、会場は大賑わいとなる。数ある見本市でも、最も人気のあるのがこの農業見本市だ。人々の胃の腑の欲望を満たしてくれるのだから、当然といえば当然である。グルメの国フランスならではの行事かもしれない。
ヨーロッパの農家の抗議行動
今回の抗議はこの食の問題をめぐって起きたのだ。それもフランスだけでなく、ヨーロッパの主要国を含む農業問題への抗議であった。
かつて日本も、8月ともなると農林水産省に農民団体が押し寄せ、次年度の予算案へ圧力をかけるという儀式があったが、最近は少なくなった。フランスも8月になると、あちこちで農民団体がトラクターに乗って抗議をするというのが恒例であった。
しかし、今回の抗議はかなり規模の大きなものだったといえる。問題の所在が、単に一国にとどまらず、ドイツの農民運動と関係していた点で注目すべきものなのだ。
すでに2023年からポーランドとウクライナとの国境では、ウクライナの小麦を積んだトラックを通さないようにポーランド人が封鎖を行っていた。
それは、ウクライナから大量の小麦がEU(欧州連合)内になだれ込んできて、それが農産物価格を吊り下げ、農家の収入を減らしてしまうことへの抗議であった。
もちろんそれはEUが、ウクライナ支援としてEUの外にあるウクライナから関税なしで小麦を入れることで財政支援をするという経済的支援の一環として行っていることの1つではある。しかし、それが一方でヨーロッパの農家の財政を直撃していることは間違いない。
経済制裁のブーメラン現象という問題が取り沙汰されるとき、とりわけ工業や商業の問題とされるが、農業に関して問題になることはあまりない。ウクライナからポーランドへ運ばれる農産物は、EUだけで売られるわけではない。
すでにオデッサ(オデーサ)の港が使えなくなっているため、陸路を使うしかなく、輸出するにはEUを通るしかないからだ。
ロシアへの経済制裁がもたらしたもの
EUによるロシアへの経済制裁は、ロシアから入ってくる天然ガスや石油といった燃料だけでなく、消費市場としての農産物のはけ口であるロシア市場を奪ったのである。その意味で、とりわけ東欧地域の農民にとってウクライナからの小麦の輸入は、頭の痛い問題であることは確かである。
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