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ウクライナ戦争で露わになったEU内の格差問題 ヨーロッパの農家はなぜ抗議活動を行うのか

東洋経済オンライン / 2024年2月16日 8時0分

「エラスムス制度」は、その格差を是正するための制度で、教員の交流、留学の促進を図り平準化を進めてきたのだが、それは簡単なことではない。

フランスで問題になっていることに、医者の免許取得の問題がある。フランスの大学医学部への入学は簡単だが卒業は難関だ。

多くのフランスの医学部崩れの学生は、ルーマニアの大学に流れる。ルーマニアの大学で卒業し、そこで医師免許資格を取りフランスに戻ってくるのである。慢性的に医師不足だから国民としては助かるが、フランスの医師免許取得者とルーマニア医師免許取得者に差があるとすれば、国民医療の水準にとって問題だ。

さまざまな面でEU諸国には、その水準においてそれぞれ格差がある。あらゆる面で格差のある国をまとめたEUで、それを調節するのが難しいのも事実だ。

経済がうまくいっているときはさほど問題にならなかったことが、ウクライナ戦争の経済制裁によって疲弊している今のヨーロッパでは、これが大きな問題を引き起こしているのだ。

EUがはらむ「格差」という問題

そもそも東欧地域をEUに入れたこと自体が、EUの最初の概念を壊してしまったともいえる。

最初は豊かな国の共同体を目指したのだが、東欧社会主義の崩壊の後、東欧へ拡大することで、あらゆる意味で格差のある地域へEUを拡大してしまったわけである。

EUの中で、豊かな北とそうでない南と東を分ける議論もあったし、2つの通貨ゾーンをつくるという議論もあったのだが、結局「1つのEU」で進み、それがどんどん東に拡大していった。

当然ながらそれは、EUの資本家がそれを欲したからである。所得水準の低い東欧や南欧に工場を移転させ、そこで安価な製品をつくるという政策がそれを推し進めたのである。

ルーマニアのシビウという町の飛行場の脇には、ドイツなどの企業の工場が並ぶ。その安価な商品がEU市場や世界に流れ込むことで、アジアの安価な商品に対抗できるわけである。

こうして所得の高い地域の産業は一方で空洞化していった。では、これと同じことを農業で行えばどうなるか。当然ながら南欧や東欧地域からの安い農産物の輸入を行うことである。

それができるのは零細農家ではなく、大規模な農業企業だけである。零細農家はそのしわ寄せを受けるだけだ。

しかし、ルーマニアも1人当たり1万ドルの所得をすでに超えていて、とても低いとはいえなくなってきている。だからこそ、資本はさらに東方へ、1人当たり4000ドル以下のウクライナやモルドヴァに向かった。

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