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キューバ「オーガニック大国」になった意外な経緯 大国に振り回される中、たどりついた農業

東洋経済オンライン / 2024年2月19日 16時0分

家庭の台所に入ってみると、憧れだけでは済まない一面も見えてくる。2週間ほど家庭に滞在しながら生活していて印象に残っているのは、「物がない」という状況だ。

最初にお世話になった家庭のマリリザさんは、家政婦として働きながら、高齢の母の世話をしている。彼女にくっついて市場に買い物に行った。市場といってもさほど広いわけではなく、豆とキャッサバ芋と数種類の野菜だけが売られていて小さな直売所のような雰囲気だ。

マリリザは、オクラを握って念入りに硬さを確かめながら選び、インゲン豆も買って、アボカドに手を伸ばしたが「ものがよくないのに高い」と言って顔をしかめた。

次の市場でアボカドを探すも、硬くて小さいと素通りし、3軒目に行った少し高級そうな市場でようやくお眼鏡にかなうものを発見。「少し高いけれど、あなたにいいものを食べさせたいからね」と言って、慎重に選んだ1つを買ってくれた。

どこの市場でも品揃えはさして変わらず、並ぶのはキューバ国内で育つ野菜や果物たち。目立つのは黒インゲン豆。肉屋には豚と鶏はあるが牛はない。想定外に手に入らないのが卵で、前年のハリケーンで養鶏場が打撃を受けたこともあり、数軒市場をはしごして探すのだという。

買い物だけで、うんと時間がかかる。キューバの女性が無償家事労働に費やす時間は、1日のうちの21%。これは国際的にみてもかなり上位で、日本の15%と比べても長い。買い物に時間がかかることも、一因にあるのだろうか。

買い物から帰って昼食に作ったのは、黒インゲン豆のスープ「フリホーレス・ネグロス」だ。大豆くらいの大きさの真っ黒な豆を圧力鍋で柔らかく煮たところに、にんにくや青唐辛子の香りを移した油をじゅわっと注いで風味付けし、ご飯にかけて食べる。

見た目の通り、飾らぬ素朴な味わいだ。今日はそこにおかずが3品、オクラと卵の炒め物、アボカドとインゲンのサラダ、揚げプランテーン(調理用バナナ)が加わる。私がいるから、いつもよりおかずの品数が多い。この家では、肉を食べられるのは2週に一度、果物は贅沢品だという。冷蔵庫には水だけが入っていた。

配給システムで配られるもの

それでもフリホーレス・ネグロスだけは毎日食べられるのは、黒インゲン豆と米が配給食料として全国民に提供されるからだ。彼女が「うちで一番大事なものだよ」と言って見せてくれた配給手帳には、「米5キロ、豆1キロ、油0.5キロ、砂糖3キロ……」と月々の配給で受け取る量が記されていた。この手帳を配給所に持っていくと、少しのお金と引き換えに食料がもらえるのだ。

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