スタバ「巨大企業帝国」がはらんできた数々の矛盾 矛盾に満ちた経営が、独特な共同体を作り上げた
東洋経済オンライン / 2024年2月25日 12時0分
日本で3番目に多い飲食チェーンなのに、令和の今もわれわれ消費者に特別な高揚感を与えてくれるスタバ。
ブランディングやマーケティングから見ても、一貫した理念や戦略があるように思えるが、実は「コーヒーを大切にしてきた歴史がある一方で、人気商品は、コーヒーとは正反対にも思えるフラペチーノである」など、矛盾とも思える部分も少なくない。
しかし、この「矛盾」こそが、スタバを「特別な場所」にしてきたのかもしれないーー。
『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』などの著作を持つ気鋭のチェーンストア研究家・谷頭和希氏による短期連載の最終回(第5回はこちら)。
本連載の第4回で私は、スタバが持つ「矛盾」が、その空間を特別なものにし、そこに集う人々に特有の「同一性」をもたらすことを指摘した。
(関連記事:「スタバ=Macポチポチ」"偏見"が物語る強さの本質)
スタバの空間に入ることは、すなわち、ある共同体に入ることであり、スタバを利用する人々の中にはある種の連帯感が生まれているのではないか。こうした感覚は、スタバを利用する人であれ、利用しない人であれ、多くの人が持っている感覚だと思う。
スタバの「矛盾」は新しい共同体を作り出している。
こんな突飛な話から、最終回となる今回は、世界をスタバが覆っている現代について、時代の状況なども踏まえてそれをどのように捉えられるのかを考えてみよう。
スタバがグローバルチェーンになった時代はどのような時代だったか
スタバがその店舗を大きく広げ、全世界的なチェーンになったのは1990年代のことだ。初めての海外出店は日本で、1996年、銀座にスタバの日本1号店が誕生した。
その後の拡大は、読者の誰もが知るところだろうが、ここで私が指摘したいのは、スタバが誕生した時代がどのような時代であったのか、ということである。
社会学でよく言われることなのだが、1990年代後半から全世界的に「大きな物語の凋落」という事態が起こったといわれている。小難しい概念のように思えるが、非常に簡単に言えば、それまで信じられていた「国」とか「宗教」といったような、人々がその精神的な拠り所にしてきたものの自明性が疑われ、共同体が共同体として機能しなくなったといわれているのだ。
こうした状況を端的に表すのが、1991年のソ連崩壊である。それまで、世界は資本主義と共産主義という分かりやすい対立軸を持った2つのイデオロギーを中心に動いていた。だから人々もそのどちらかを信じることで、「国家」という共同体に参加している感覚を得ることができた。精神的な拠り所があったわけだ。
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