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経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(上)

東洋経済オンライン / 2024年3月13日 8時0分

その答えはよくわからないが、彼らの大きな関心の1つでもあり、彼らがこれから取りかかろうとしている被用者年金の一元化という難題も、31年をかけて2015年にやり遂げている日本の公的年金は、広く世界からも高く評価されているという事実はある。

たとえば、IMF(国際通貨基金)の年金セミナーでIMF財政局長のガスパール氏(元ポルトガル財務大臣)は、「日本の年金制度は、過去20年にわたり、諸データを開示し、改革されてきた。年金額はマクロ経済指標などに連動する仕組みとし、制度の持続可能性を高めたうえで、世代間分配構造にもメスを入れている。日本の年金制度は評価でき、年金のベストプラクティスの1つ」と評価している。

──国際的に高く評価される日本の年金制度。それなのに国内ではなぜもめ事が多いのか。

現実の制度は関係者たち相互の力と説得による妥協の産物である(『もっと気になる社会保障』の「第1章 不確実性と公的年金保険の過去、現在、未来観」参照)。

公的年金の歴史は、制度の持続可能性、給付の十分性を忠実に考えてきた厚生労働省年金局と、かたくなに負担を忌諱する経済界、給付は支持するが負担には経済界と足並みを揃えて反対し続けてきた労働界、そして上智大学の堀勝洋名誉教授の言う「政治システムに属する公的年金を市場経済システムに属する私的年金と混同し、年金制度の基本的考え方、趣旨・目的、制度の細部について知らないままに現状を単純な視点で分析し、複眼で判断するべき年金制度について思い付きで改革案を提示」してきた経済学者、そこに年金不安を言えば支持を得られる野党という演者たちによる大衆演劇であったかのように見える。

今を賑わす「年収の壁」騒動も、社会保険制度を知らない労働経済学者たちが、「壁だ」「不公平だ」「抜本改革を」と長く論じ続けてきたことが歴史の源流にある。彼らの言う「働き損」の話を真に受けた多くの人たちが、就業調整に至り、将来の後悔につながる選択をしている。この現象を経済学者たちによる「予言の自己実現」と呼んできたが、年金周りではしばしばみられる残念な話だ。

ところが、今回の騒動をきっかけに、制度を知りデータを精査すると、就業調整は誤解に基づくものが多く、むしろ問題は、短時間労働者に対する厚生年金保険の適用除外規定が労働者には「見えない壁」となって、使用者による労働者の「働かせ方」に悪影響(使用者が正規労働者より短時間の非正規労働者を好む)を与えていることにあるとの理解へと変わり、彼らは今、ドミノ倒しのように従来の論を変えてきている。

「年収の壁」騒動の着地は勤労者皆保険の実現

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