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経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(上)

東洋経済オンライン / 2024年3月13日 8時0分

──そうしたヒューリスティック年金論に陥らないためにはどうすればよいか。

制度、歴史の学習への軽視を強め、歴史センスを育てる方向とは逆に進んでいる経済学には無理だろう。あの方面からはこれからも繰り返しおかしなのが出てくる。積立金の運用を理解するのに必須の「スプレッド」という概念を知らない。財政方式を考えるうえでカギとなる「Output is central」など考えたこともない。そして多くは年金が保険であることをわかっておらず、保険料が将来の受給権につながるなどの制度の基礎知識がないままに参入してきた経済学者というのが、いまに続く年金不信の原因だった(スプレッドについては、「社会保障への不勉強が生み出す『誤報』の正体」<2018年7月18日>参照)。

「消費の飽和」が経済の天井となっている今の時代では、世の中に安心と平等をもたらす社会保障は、経済政策としても極めて有効な手段になりうると、2023年12月5日の経済財政諮問会議をはじめ、各方面で繰り返し言い続けている私から見ると、彼ら不勉強な経済学者たちによる将来不安の煽りが、日本の消費を抑え、経済にどれほど悪影響を与えてきたのかを批判したくもなる。

あの日の経済財政諮問会議の一週間後の第8回こども未来戦略会議で、この国での社会保障政策の問題は、社会保障の意義や役割、基礎知識というのを学んだことのない大人の存在だと話しているのは、そうした意味も込めていた。

賦課方式なのに積立方式を基準として積立不足を言う者もいたりしたが、不安を煽る産業をはじめとして野党もメディアも存分に彼らを利用した。それは仕方なく、「不安産業」にとって手堅く運営されている社会保険はビジネスの敵とみなされるのはわかる(「年金は破綻なんかしていない、『わからず屋』は放っておこう」 <2019年6月7日>参照)。

2019年の「老後2000万円不足」騒動後、この騒動を利用した金融機関の煽り営業のひどさをみた政治家たちは、2021年に保険業界への監督指針を改正して、「公的年金の受取試算額などの公的保険制度についての情報提供を適切に行う」などとした。当時、保険業界は猛反発していたが、長く望まれていた政策である。

次の図は、「子育て支援めぐり『連合と野党だけ』猛反発のなぜ」に描いていた図である。この文章の副題は、「騒動の主役は「年金破綻論全盛時と同じ顔ぶれ」であった。

政権交代選挙は2009年8月であるが、その前に、民主党の年金破綻論、抜本改革論を報道していた記者の中には、後に、自戒を込めて、鳩山由起夫氏の「年金がこのままではボロボロになって、年を取ってももらえなくなるという語りかけは、非常に政権交代に貢献してくれた」(2013年4月)との記事を書いていた。よく勉強している記者も、ヒューリスティックな間違いに陥り、時代の空気に飲み込まれてしまう。それが年金を語ることの怖さでもある。

「年収の壁」騒動では、経済学者たちも揃って陥っていた「時間軸」が関わる事柄への人間の無理解を克服するためには、長期的なシミュレーションによる可視化が有効だ。だから、ウェブに公開されている「公的年金シミュレーター」を高く評価し、あらゆる場面で紹介している。少し専門家向けとなるが、およそ100年先までを投影して負担と給付を見通す「財政検証」(5年に1度公表)も他国から羨まれる仕組みである。

権丈 善一:慶應義塾大学商学部教授

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