経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(上)
東洋経済オンライン / 2024年3月13日 8時0分
──2023年に亡くなられた堀先生は、今引用された最終論文の中で、「トンデモ論にかかわり過ぎたことに対し若干の悔いは残るが、年金を研究してきたことはよかったと思っている」と結ばれてる。「年収の壁」騒動は最終的にどのように着地すべきか。
堀先生は昨年亡くなられた。本当にお疲れ様でしたと言いたい。堀先生の世代にも騒動をおこしたトンデモ経済学者がいた。そして今もいる。しかも過去、若いときにトンデモ論を唱えてその間違いが明らかになっていった者たちは、認知的不協和に陥っていくのが常だ(『ちょっと気になる社会保障 V3』x頁参照)。
年金論者は時系列で評価する必要があり、過去に間違えたことが明らかになっていった者たちは、自らを正当化しようとする心理ゆえに制度の歩みが歪んで見えるようである。そのため、彼らが日本の公的年金保険を適正に評価することは難しい。しかし彼らの歪んだ論はメディアには欲しい存在ではあり、それゆえに、報道が荒み、年金不信が増幅されてきた。
「年収の壁」騒動は現在進行形だが、年金局の資料では一貫して「いわゆる年収の壁」と書かれ、2022年末の全世代型社会保障構築会議の報告書では「いわゆる就業調整」とあり、制度を知っている者たちは、誰も、世間で騒がれている「年収の壁」を超える働きを、「働き損」だとは思っていない。保険を買ったり貯金をしたりすれば、その年の消費に回せる年収は減るが、そのどこが「働き損」なのか。社会保険と税の区別がつかず、おかしなことを言ってきたのがいたことは確かだ。
かつて年金破綻論を真に受けて、年金が破綻する前に受給し始めるのが正しいと信じて、年金額が低くなる繰り上げ受給を選択した者もいたようだが、その人たちは長生きすれば後悔するだろう。年収の壁騒動も同じで、「年収の壁」「働き損」という学者やシンクタンクの言葉を、そして、その声に拡声器をつけた報道を信じて、就業調整をしている人たちは、将来自分の過去の選択を後悔することになるだろう。しかし、いつものように経済学者たちには責任は求められない。
こうした話の背景がわからない人たちが多くいることも想定されて、2022年12月の全世代型社会保障構築会議の報告書では、「広範かつ継続的な広報・啓発活動を展開するべき」と書かれている。
また、厚労省年金部会や全世代型社会保障構築会議で私が繰り返し言っていることは、新たに厚生年金の適用拡大の対象となる企業の事業主には、「公的年金シミュレーター」を利用して労働者とのコミュニケーションを義務付けるべしということと、厚生年金をはじめとする被用者保険の適用基準となる月額8.8万円の意味(何の給与、収入、手当が対象なのか)を正確に労働者側、使用者側ともに理解してもらう努力を地道にするということだ。
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