フィリピン「ラスプーチン」で新旧大統領派が激突 指名手配犯の新興宗教教祖がカギを握る政局
東洋経済オンライン / 2024年3月28日 8時20分
フィリピンで、新興宗教団体とその教祖にまつわる疑惑が政局の焦点に浮上している。ドゥテルテ前大統領の「スピリチュアル・アドバイザー」として、帝政ロシア末期に暗躍した怪僧ラスプーチンさながらの存在感を誇った教祖だが、アメリカから性加害や詐欺など多数の罪状で指名手配された。
政権交代から時が経つにつれ、前大統領のドゥテルテ派と現職のボンボン・マルコス大統領派の亀裂が深まるなか、教祖は国内でも起訴された。公聴会への出頭を拒否した上下両院から逮捕状も出された。
ドゥテルテ派は「迫害だ」と訴える教祖の擁護に回り、マルコス派との対立は抜き差しならない状況に陥っている。南シナ海で中国と対峙するフィリピン政治の安定が損なわれれば、日米の安全保障環境にも影響が及びかねない。
信者600万人? カルト教団?
マニラ首都圏パシッグ市検察庁は2024年3月18日、新興宗教団体「イエス・キリストの王国」のアポロ・キボロイ教祖ら6人を人身売買罪で起訴した。南部ミンダナオ島ダバオ市検察庁もこれに先立ち児童虐待、性的虐待などの罪でキボロイ氏らを起訴した。
レムリヤ司法相が同月5日、起訴手続きを進めるよう両検察庁に指示していた。3月末現在、教祖の行方は知れず、逮捕はされていない。
教団のホームページなどによると、キボロイ氏は1950年4月生まれの73歳。「選ばれし神の子」を名乗る。キリスト教系の他の宗派に属していたが、神の啓示を受けたとする1985年にダバオに「王国」を設立した。世界と人類の歴史は終末を迎え、近く最後の審判が下る、教祖を信じる者だけが永遠に神の国に入り、救われるという終末論を唱える。
キボロイ氏は「私が地震を止めた」などと超能力を喧伝してきた。フィリピン共産党やその軍事部門の新人民軍と敵対する反共主義者としても知られる。信者は国内400万人、国外200万人の計600万人とうたっている。被害を訴える人たちや批判派は「カルト教団」と糾弾する。
片田舎の教祖と教団が「全国区」に躍り出たのは、30年来の親友とお互いに認めるドゥテルテ氏が2016年、ダバオ市長から大統領選に立候補し、当選してからだ。キボロイ氏は選挙戦中には自家用ジェット機やヘリを貸し、資金面でも多大な援助をしたとされる。
就任後は大統領の「スピリチュアル・アドバイザー」との肩書を与えられ、政権の威光を背景に活動の幅を広げた。政権末期の2022年1月26日、教団のテレビ局SMNIが国家通信委員会から25年間の地上波放送免許を与えられた。ドゥテルテ政権に批判的だった民間最大の放送局ABS-CBNの免許更新を認めず、その周波帯の一部をSMNIに割り当てた。
FBIが性的虐待などで手配書公開
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