フィリピン「ラスプーチン」で新旧大統領派が激突 指名手配犯の新興宗教教祖がカギを握る政局
東洋経済オンライン / 2024年3月28日 8時20分
2023年11月、ドゥテルテ氏に取り立てられた前政権の元高官らがSMNIの番組で、下院のマーティン・ロムアルデス議長が外遊で18億ペソ(約48億円)を費消したと批判的に取り上げた。
下院はマルコス派の牙城であり、大統領のいとこであるロムアルデス氏は側近中の側近だ。実際の支出は3960万ペソ(約1億0600万円)だったことから、下院は偽情報を拡散したとして公聴会で発言者らを厳しく糾弾し、議会侮辱罪で一時拘束した。
これに先立つ2023年10月には、SMNIに定期出演するドゥテルテ前大統領が下院を「腐った組織だ。ロムアルデスを監査しろ」と批判、サラ氏率いる副大統領府の機密費を追及してきた野党の女性議員を名指しして、「私はおまえら共産主義者を皆殺しにしたい」と罵った。
下院は2024年3月20日、偽情報の流布や露骨なレッドタギング(左翼とのレッテル貼り)、議会の承認を得ない所有権移転などを理由にSMNIの免許取り消しを圧倒的な賛成多数で可決、上院に送った。
キボロイ氏は上下院の度重なる公聴会への呼び出しに応じないため、両院とにも議会侮辱容疑で逮捕状を発付した。キボロイ氏の弁護士は最高裁に逮捕状の違法性を訴えている。
キボロイ氏は2024年2月21日、「アメリカ政府はマルコス大統領、ロムアルデス議長と共謀し私の暗殺を狙っている。邪悪な政権を倒さなければならない」と大統領と議長の辞任を求める動画を支持者に送った。
これに対してマルコス大統領は「状況を改善したいなら上下院で証言することだ」と突き放した。コメントを求められた駐比アメリカ大使館は、「11歳の少女に対する性的暴行を含む(教団による)組織的な人権侵害が裁かれることを確信している」との声明を出した。
次期選挙で巻き返しを狙うドゥテルテ派
マルコス派とドゥテルテ派が決裂状態に陥っていることは先に「蜜月終焉、フィリピン正・副大統領間で大抗争勃発」(2024年1月31日)で書いた。
対立点の1つは、マルコス派が急ぐ憲法改正に対してドゥテルテ派が国民に阻止を訴えている改憲問題、もう1つは前政権の麻薬撲滅戦争にからむ国際刑事裁判所(ICC)の捜査に対する現政権の姿勢だ。
ICCは近く前大統領らに逮捕状を発布する可能性が指摘されており、現政権がこれに協力しないようドゥテルテ派が強く牽制している。これにキボロイ氏の処遇が新たな争点として加わった。
サラ氏は2024年3月11日、「キボロイ氏は宣伝のための裁きにかけられるのではなく、法廷の場で対処されるべきだ」と援護射撃の動画をSNSに投稿した。翌12日、マニラ市中心部の公園で催された教団の集会には前大統領、サラ氏のほか、ドゥテルテ派の上院議員らが一堂に会した。
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