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「水素の町」を構想する福島・浪江町の理想と現実 震災復興の住民は割高コストを受け入れるのか

東洋経済オンライン / 2024年4月4日 8時0分

白河市から移住し、町で地元農産品を扱う商社を起業した緒方亘さんもその一人だ。「浪江町の復興には若い力が欠かせない」と知人に促され、移住を決めた緒方さん。

ただ、町の水素事業に対しては、「環境にやさしいのはわかるが、それが自分の仕事や生活にどう還元されるのかイメージできない」と、冷静な目を向けている。

緒方さんら移住者の相談役になっているのが、2017年の避難指示解除前から一時宿泊でいち早く帰還した佐藤秀三さんだ。

佐藤さんは、「浪江町の放射線量や体への影響について、13年間われわれは勉強してきた。その目で見れば、水素がどういうものなのか、コストが高くなることも家庭に普及するまで時間がかかることも理解できる。水素爆発のイメージが強烈に残るわれわれだからこそ、水素を受け入れる土壌もある」と語る。

「原発事故で浪江町は一度ゼロになった」

浪江町が「水素タウン構想」を掲げたのは、震災から10年が経過した2021年7月のこと。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが、原発予定地だった棚塩地区の広大な敷地に水素製造実証プラントのFH2Rを建設したことをきっかけに、「水素の町」を前面に打ち出した。

浪江町の吉田栄光町長は、「震災と原発事故で浪江町は一度ゼロになった。エネルギー変革の時代にいるわれわれが、新しいまちづくりを進める中でどんなエネルギーが社会に貢献するのかを考えた時、水素は大きな柱になる」と言う。

FH2Rでは太陽光発電による電力で水を分解し、毎時1200N㎥(定格運転時)の水素を製造する。1日で150世帯分の電力に相当するエネルギーを生み出す計算だ。

ここで製造される水素が、水素ステーションや役場、道の駅、温浴施設などの燃料電池に供給される。各企業は国や研究機関の補助金を独自に獲得し、供給網構築に向けたさまざまな実証を町内で行っている。

町役場も国の補助金を活用して年間3億円弱の予算を組んで水素事業を推進する。公用車やスクールバス、スーパーの移動販売車のFC化や、使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄う「RE100」の工業団地の実現にも目下、取り組んでいる。

2026年度にはFH2Rは運営主体を変え、商用化に入る方針が公表されている。いよいよ実証段階から、実用化の段階に移行することになる。

吉田町長は、「水素エネルギーの実用化では、コスト負担を含めて新たな考え方が必要になる。国のエネルギー政策全体の中で水素がどう活用され、制度が整えられていくのか、大きな関心を持って注視している」と話す。

水素社会の到来には消費者の意識醸成が不可欠

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