年収1500万が中途障害で暗転「非正規雇用」の現実 58歳男性「何もできない人」と見なされる苦悩
東洋経済オンライン / 2024年4月6日 7時50分
一定数以上の従業員を抱える事業主には、障害者の雇用が義務づけられている。全体の雇用者に占める身体や知的、精神障害者の割合を定めたものが「法定雇用率」だ。
この4月、その法定雇用率が2.3%から2.5%に変更された。従業員40人に1人は障害者を雇わねばならない。さらに2026年度には2.7%に引き上げられる予定だ。しかし、満たせない場合、納付金の支払いや行政指導、企業名の公表などのペナルティーがあるものの、従来の2.3%でさえ達成率は約50%にとどまる。
突然の障害で職を失う
「ただ障害者というだけで、周囲から『何もできない人』と見なされる。それが働く中で一番つらい」
そう語るのは、神奈川県茅ヶ崎市の濱田靖さん(58歳)。肢体不自由で身体障害者手帳2級を所持する。右半身がマヒしており、上肢は親指と人さし指しか動かせず、下肢はひざから下の感覚がほとんどない。
障害を負ったのは2004年9月のこと。茅ヶ崎市の病院で健康診断を受けた際、採血中に意識を失った。気づくとベッドの上に寝かされていたが、全身の筋肉が硬直して目も開けられない。妻に迎えに来てもらい、借りた車いすに乗って帰宅。玄関でまた昏倒し、翌日の朝まで目覚めなかった。
療養のために実家がある佐賀県へ帰省すると、医者からは「脳に小さい梗塞のような痕跡がたくさんある」と言われた。頸椎や脊髄の損傷も発覚。約1カ月半にわたり入院し、懸命なリハビリの末に杖をつけば歩けるまで回復した。医療事故を主張したが、健康診断を実施した病院側は認めず、民事訴訟でも敗訴に終わった。
濱田さんはそれまで、特に大病を患った経験はなかった。高校卒業後、難関大学の受験で2年浪人するも、かなわずに就職。何度か転職し、30歳で接着剤や塗料を開発するベンチャー企業の立ち上げに携わった。少人数だったため、営業や施工、新製品の研究など、多岐にわたる業務をこなした。
激務と引き替えに事業は軌道に乗り、ピーク時の年収は約1500万円に達したという。経済的に恵まれた生活環境は、身体障害者となってから一変。事情を勤め先に説明すると、すぐにリストラされた。退職金も出ず、生活のために貯金を切り崩す毎日。佐賀では障害者向けの求人は少なく、神奈川の自宅へ戻り、ハローワークに通った。
「体が不自由になったとはいえ、頭はハッキリしている。何か自分にもできる仕事があるはず、という思いが心の支えだった」(濱田さん)。ところが、新しい職場は決まらなかった。企業が優先的に雇いたがるのは、受け入れが容易な軽度の障害者。症状が比較的重い濱田さんは、なかなか採用に至らなかった。
8年で4社を渡り歩く
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