なぜ「厚底シューズ」を見ると気分が悪くなるのか 日本企業が競争で勝てなかった根本原因は何か
東洋経済オンライン / 2024年4月6日 8時30分
例えば「牛丼1杯400円ちょっと」というイメージで、安く済ませたいと思って、職場のそばの牛丼チェーン店に入るとしよう。だが、新メニューや期間限定のマレーシア風のメニューなどにひかれ、ちょっと高いけど、こっちと選択を変更し、結局830円払うことになる。
それでも「今日のランチはおいしかった、満足だ」ということになり、矛盾にまったく気づかない。自分はランチを安く済ませているという感触が残ったまま、おいしかったと満足し、来週も似たようなことを中華そば屋で実行することになる(だから企業は牛丼や中華そばの値上げは最小限で、定食や具沢山麺の値上げは大きめという戦略を取る)。
厚底シューズは、ビジネスで大成功した。どのメーカーもいまや厚底一辺倒だし、軽いジョギングやウォーキングしかしない人々ですら、厚底、しかもふわふわのシューズを履いている。
しかし、本当はふわふわだと歩きにくい。ある程度固さのあるシューズのほうが、歩きやすく疲れにくい。クッションが効きすぎていると沈みすぎて、ねんざのリスクもある。
しかし、皆、履き心地の良さそうな見た目と足入れした瞬間のクッションの気持ちよさで「あ、これは足にいい!」と思い込みが確定し、歩きやすい靴を履いている気でい続けることになる。そして、本当に歩きやすい靴よりも、試着したときに気持ちいいシューズが売れまくるのであり、だからメーカーもそちらに流れるのである。
当初、アシックスは、ナイキの厚底シューズに市場を席巻され、厚底にシフトしようとしたという。だが、現場では「エリートランナー以外には向かない」「本当にいい靴を消費者に届けたいから反対だ」という声が多かったという。
しかし、現実には、アシックスが誠実な靴を作り続けても、消費者は厚底に飛びつき、ほぼ全員そちらに移ってしまう。「それならうちで、足に良い、一般の人が履いても大丈夫な厚底を作ることが消費者のためになる」という考え方で、厚底シフトに完全に踏み切り、同社は現在、シェアを急速に巻き返している。その結果、業績も株価も絶好調となっている。
これが、「厚底」“イノベーション”によるビジネスモデルの成功だ。ナイキのイノベーションとは、カーボンプレートや厚底というテクノロジーでもコンセプトでもなく(実際、アシックスは、歩くための厚い底のシューズを先に出していた。それはまったく別の考え方で歩行者のために作られたもので、現在の厚底とは別物だ)、キプチョゲ、ナイキ、見映え、売り方、それらの勝利なのである。
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