1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

YouTuberの論理がZ世代に与える絶大な悪影響 苦言を呈する「アンチ」に「アンチ」する世界観

東洋経済オンライン / 2024年4月17日 11時40分

さすがに大げさだと感じるかもしれない。しかし実際に教育現場では、似たようなことが起きている。たとえば、授業中に私語がうるさいという苦情を受けたので学生を注意したところ、注意された側の学生から、逆にこういうクレームが入ったのだ。

「他人を気にしている暇があったら自分のことをすればいいのに。出る杭は打たれる」

「アンチが何か言ってたみたいですけど、でも、私は自分の味方が一人でもいれば、アンチは気にしません」。

なぜこんな物言いをするのか。「推し」がそう言っていたからに違いない。

苦言を呈してくる人はアンチなので、アンチにはアンチしないといけない。このあまりに単純で安易な世界観が若者に着実に浸透しつつあることを、筆者は肌身で感じているし、けっこう危惧している。大学でそうなっているのだから、そのうち職場でもそうなるだろう。つまり、会社でZ世代を注意したら、即刻アンチと認定されるのだ。そんなの正直、やってられない。でも、われわれの社会は、着実にそうなっている。

「アンチ─アンチ」は人生の指針にはなりえない

世界を推しとアンチに分断するというあまりに安直で、そして場合によっては便利な世界観は、SNS隆盛の現代においていっそう加速している。その背後において、集客によって金を生み出すという仕組み、つまりむき出しのビジネスの論理が加速装置として機能していることは見逃せない構造だといえる。

改めてビジネスの話をすると、ビジネスの世界ではセグメンテーションといって、想定する顧客の属性を細かく区切るのが当たり前である。なおセグメンテーションは、経営学の一分野であるマーケティング学で発展した知見でもある。で、そして、広告宣伝はその顧客だけを向いておけばいい。20代女性向けのサービスは、30代男性の筆者には決して刺さらないし、刺さる必要もない。

この「向いてる方と向いてない方」を分断するのが現代のビジネスの基本論理であり、この応用がアンチ─アンチなのだ。インフルエンサーは客の方だけ向いておけばよくて、アンチは無視するか攻撃し返すのが正しい。繰り返すがこれはマーケティングの有力な手法というだけであって、人生の指針として正しいかはまったく別だ。

そう言える理由はいくつかある。シンプルな理由としては、アンチ―アンチしても、われわれの(長期的な)得にはならないからだ。インフルエンサーは、アンチ認定をすることでファンを繋ぎ止め、結束を高め、収益を得る。収益のためにそうしているのだ。しかし、お金も出ない日常で他者をアンチ認定しても、われわれには一銭も入ってこない。それどころか、自らへの信頼を失って、人間関係が悪くなるだけだ。何の疑問もなく推しに従い、リアルでも「アンチ―アンチ」するZ世代は、そういったリスクをどうやら勘案できてはいないのだ。

舟津 昌平:経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください