80年代、東大駒場に流れていた自由な風の正体 異色の教養シリーズ「欲望の資本主義」の原点
東洋経済オンライン / 2024年4月18日 10時30分
大学の学問など役に立たない、会社に入っても大学時代遊んでいた人間のほうが使える、といった発言を多くの企業人たちからも聞くような時代でしたから、それに対する反発もあったんでしょうね。単に「A」をとるような「学習」ではなく、もっと突き抜けた「学問」に4年間身体ごと浸かることに懸けようと……。
そしてそんな時を過ごす中で、カントの「コペルニクス的転回」ではありませんが、認識の仕方次第でこの世界が変わって見えること、その喜びこそが僕にとっては最も大事なことなのだと確信したのです。大学時代は、そのエネルギーを生きていくうえで核とすることを決意した、教養的マインド形成の原点かもしれません。
そして実は入局後、30代の頃ディレクターとして教養特集などを構成、演出していた際も、勝手知ったる駒場にはよく出没し、多くの先生方に取材、ご出演いただきお世話になっていました。NHKの渋谷と東大の駒場は歩いても20分ぐらいですが、この往復運動が物理的にも精神的にも、いいトレーニングになっていましたね。
「自分とは何か」に向き合うとき開かれる視点
堀内:すごく面白いですね。丸山さんの伝記をNHKで作ったらいかがでしょうか(笑)。
丸山:なんだか恥ずかしくなるような話ですが、20歳の頃から成長がないのかもしれません(笑)。学生時代は国際都市TOKYOが飛ぶ鳥を落とす勢いで世界の注目を集め、上京してきた人間にとっては実に面白い時代ではあったのですが、その表層の景気に浮かれているだけの大人も少なからずいた時代の空気への違和感もありました。華やかな祭がいつ終わるか……、むしろ醒めた感覚と共に危機感もあったのだと思います。
堀内さんもインタビューなどでお話しされていますけれども、銀行時代に不良債権処理を理不尽な形で押しつけられたところから、いろいろ考えられて、そこから自分の人生を見つけたと。やはり人間は、ある種の切実感と言いますか、自分がこの場に、この世界にいるということの意味を、あるいは自分が社会との間でどういう関係を築くべきかといったことを考えるきっかけが大事になると考えます。その切実感から生まれてくるものが、教養的な思考にもつながるのかもしれません。
堀内:そうですね、人は生まれることが物理的な人生のスタートだと思うのですが、何か自分の生存をおびやかされるような切迫感を持った体験などで「自分とは何か」という問いに正面から向き合わないと本当の人生はスタートできないと思っています。そうした意味で、人は2回生まれるのではないかと思っています。ずっと順風満帆な生活を送っている人は、もしかしたらそのような切実感に向き合わないまま中年以降に突入してしまうのかもしれません。
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