80年代、東大駒場に流れていた自由な風の正体 異色の教養シリーズ「欲望の資本主義」の原点
東洋経済オンライン / 2024年4月18日 10時30分
堀内:それは意外ですね。最初から映像の仕事を志してNHKに入社されたわけではないのですね。ラジオ志望から、どんなことがきっかけとなって、今の仕事へとつながっているのでしょう?
丸山:ええ。でも、ラジオでもテレビでも、その本質的なところは変わらないことにも気づきました。やはり取材が大事で、音声にせよ映像にせよ、想像力を動員しながら断片を構成し、一つの形へと構築していく、表現の形へと整えていく制作の過程には、発見と思索の醍醐味があります。
そして同時に、映像はその「フレーム」の作り方により、見る人の視点により無数の広がりを持つことの難しさと面白さにあらためて目覚めました。光源は一つであっても、そこから生まれるイメージは広がり、乱反射します。作り手が思いもしなかった視点を見る方が感じ取ってくれる、これ自体が映像を通しての対話、発見の過程です。
ある視点からの発見の大切さに目覚めた一つのきっかけは、浪人時代だった1981年、『中央公論』に掲載された、当時京大人文研助手の浅田彰さんの文章をたまたま読んだことにあります。
『構造と力』の「序に代えて」となっている「千の否のあと大学の可能性を問う」といったシニカルなサブタイトルがついている文章でしたが、時代状況の変化を俯瞰しつつ、学問、大学、社会、そして知のあり方の変化についての一つの見取り図を提示するようなエッセイでした。
これも今思えば、1970年代から1980年代へと、工業化社会からいよいよポスト産業資本主義への転換が本格的に社会の構造を変え人々の意識を変えることへの洞察でもあったわけですが、自らの居場所を見つけられない思いを抱えていた身には、その感覚、表現のスタイルが非常に興味深く、刺さりました。
著者紹介を見ると専攻は「経済学史」と「数理経済学」とあったんですね。経済という学問を入り口とすれば、こんなふうに縦横無尽にジャンルを横断して知の世界を疾走できるのかと、経済学部の選択にもつながりました。
それで、慶応大学の経済学部に進学したのですが、ここでまた単線的には進めない悪い癖が出たのか(笑)、もっと世界を広げようと東大の駒場に下宿し、慶応に通うのと同じぐらいに、教養学部のキャンパスを歩き回る生活を送るようになりました。当時、アカデミックであると同時にジャーナルな仕事もされている、個性的な先生方も多かったんですね。
たとえば、経済学者でありながら『大衆への反逆』なども著し社会批評家でもあった西部邁さんが「経済原論」を講義されていたわけですが、ある意味自らが説く近代経済学に対して自ら疑問を持ちながら、将来官僚を目指すような人々を目の前にして語っているわけです。
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