安すぎる大学の学費により日本社会が失ったもの 学生の経済的負担が小さいことは利点だが…
東洋経済オンライン / 2024年5月16日 11時40分
そのためアメリカでは、学費を払えずに中途退学する学生が後を絶ちません。教育ローンの残高は、なんと1兆7700億ドル(約280兆円)に達します。卒業後にローンを返済できず破産する若者が増加し、大きな社会問題になっています。
一方、日本でも、返済が必要な奨学金負担の問題はあるものの、アメリカに比べれば深刻ではありません。結果として、進学率が上昇し、教育の裾野が広がり、国民の学力が上がります。さまざまな格差が縮小し、安定した社会が実現します。
また、海外からの留学生にとっても、日本の大学の学費は魅力的でしょう。近年、国内の少子化を受けて、各大学とも留学生の獲得に注力しています。安価な学費は、留学生を確保し、大学の経営を安定させることにつながります。
優秀な研究者が日本に来ない
一方、あまり指摘されていませんが、安価な学費には悪い点もあります。一言でまとめると、研究が高度化しないという問題です。
近年、日本の大学の研究力の低下が顕著です。学術出版大手シュプリンガー・ネイチャーが昨年公表した理科系の大学・研究所の研究力ランキングによると、首位は中国科学院、2位はハーバード大学、3位は独マックス・プランク研究所で、日本勢では東京大学の18位(前年14位)が最高でした。
原因はいろいろあるでしょうが、やはり何と言っても“金”です。日本の大学は、学費収入が少なく、国からの運営補助金などに依存する脆弱な財政構造です。そのため、金のかかる先端研究はどうしても制約されます。また、金主である文部科学省の顔色をうかがわなければならないので、思い切った自由な研究ができません。
大学教授の平均月収は、国立大学45万7300円、私立大学46万8100円(文部科学省「学校教員統計調査<令和4年度>」)で、ボーナスを含めた年収は1000万円程度です。3000万円以上が当たり前、1億円プレイヤーも珍しくないアメリカとは比べものになりません。この薄給では、日本語の壁もあり、海外から高給で優秀な研究者を集めるのは困難です。
以上をまとめると、日本の大学の安価な学費は、国民の教育水準を上げ、大学が学生を確保するには有効ですが、大学の競争力を高め研究をレベルアップさせるには不適切だということになります。
大学に期待する役割によって学費は違ってくる
では、日本の大学は今後も安価な学費を続けるべきでしょうか、それとも値上げするべきでしょうか。答えは、大学に教育機関の役割を求めるか、研究機関の役割を求めるかによって違ってきます。
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