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「ステージ4の膵臓がん」父が沖縄で子に見せた姿 亡くなる13日前に敢行した7日間の大移動

東洋経済オンライン / 2024年5月31日 14時5分

そんな思いを新たにしながら、愛里さんは、父たっての希望である沖縄旅行に寄り添った。

フェリーに乗って鹿児島から沖縄へ

2023年2月下旬、新横浜を出てから9時間後、一行は鹿児島県の鹿児島新港に到着した。新幹線が停まる鹿児島中央駅から車で数分の場所である。この短い距離もやはり介護タクシーを使った。

「鹿児島から沖縄の那覇まで、20時間以上の船旅です。途中、奄美大島や沖永良部島などに寄港しながらの旅なので、どうしても時間がかかるんです」(愛里さん)

船内で1泊するので、稲本家は個室を取ってある。ツアーナースの細山看護師については、すぐに駆けつけられる場所の部屋を愛里さんはキープしていた。

「父の車いすを押して、デッキを散策したり、家族みんなでレストランを利用したり。とても楽しい船旅だったのですが、船ってバリアフリーじゃないんですよね。病気のために痩せているけど、父はもともと体格のいい人で、結構体重があるんです。付き添いは全員女性ですし、私は妊娠中だし。車いすごと抱えて段差を乗り越えるのはとても大変」(愛里さん)

そこで細山看護師が機転を利かせた。

「レストランに数人の男性グループがいて、話を聞いていると、どうやら自衛隊員さんらしいということがわかった。思い切って声をかけてみました」(細山看護師)

「皆さん、車いすの移動を手伝ってくれませんか」

細山看護師の呼びかけに、大男たちがどやどやと集まってきた。

「大変ですね。任せてください」

さすがに自衛隊員だ。リーダー格の男性が指示を飛ばすと、それに従ってキビキビと車いすの移動などを手伝う。

愛里さんは懐かしそうに当時を振り返る。

「びっくりしました。だって、まさかそんなことをお願いするとは思っていませんでしたから。でも細山さん、すごい上手なんですよ。車いすの抱え方とか、ベッドへの移乗とか、その都度適切に指示するんです。自衛隊の皆さんも、了解! みたいな感じでその通りに動いてくれます。細山さんも、自衛隊の方々も、とても頼りになりました」

ツアーナースは旅の安全と、患者の無事を担保する大切な存在だ。細山看護師が患者である秀俊さんのケアに集中しているおかげで、家族は旅を楽しむことができる。

「細山さん、沈着冷静なんですよ。何が起きてもこの人がいれば大丈夫だなって思えた。私たちの見えないところで、父が寒そうにしていたらサッと毛布をかけてくれたり。おかげで私たち家族は旅に集中することができました」(愛里さん)

沖縄での最初の2日間

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