「ステージ4の膵臓がん」父が沖縄で子に見せた姿 亡くなる13日前に敢行した7日間の大移動
東洋経済オンライン / 2024年5月31日 14時5分
愛里さんは、少しでも観光気分を盛り上げてもらおうと、ホテルで行われているフラダンスショーをスマホの動画で撮影して、それを見せたりした。
「細山さんには、向こうにいる間にも本当にお世話になりました。夜中も時々様子を見に来てくれるし、オムツ替えとかも、やってくれたんですよ」(愛里さん)
前半の2日間は何事もなく過ぎたのだが、後半に入ったくらいから、秀俊さんの容体に変化が現れ始めた。細山看護師の説明。
「尿の量も少なくなってきました。一時は血圧も50くらいになることもありました」
「もしかしたら帰ることができないかもしれない」。細山看護師は、秀俊さんがそのような状況であることを家族に伝えた。愛里さんは次のように語る。
「でも、沖縄で亡くなった場合、死亡診断書を書いてくれる医師がいません。訪問看護はお願いしたけど、お医者さんまでは探せてなかったんです」
強がりな父の「帰る力」
細山看護師と、ひまわり訪問看護ステーションの豊里看護師が一肌脱ぐことになる。
「私がいつもお世話になっているクリニックの先生にお願いしてみました」(豊里看護師)
状況を説明すると、60代のその男性医師は「とにかく容体だけでも見てみましょう」と快諾してくれたという。付き添った家族で、沖縄で最期を迎える準備を始めるための話し合いもしていた。そうなれば、ホテルに滞在し続けることは予算的にも不可能だ。愛里さんはネットでウィークリーマンションを探し始めていたという。
滞在最終日、帰宅のための船や新幹線はすでに押さえてある。それを一旦キャンセルするべきか。判断は医師と、なにより秀俊さん本人に委ねられることになった。意識レベルが下がり、ずっと目を閉じているような状態の秀俊さんだったが、医師が訪ねてきたときだけは、少しだけ目を開いた。
「そういうときって、父は性格的に強がるんですよ。意識がぱっとして、普通に元気な感じで先生と話し始めました。その様子を見て先生も“これなら大丈夫”と言ってくれました。父もその言葉を聞いて自信が出てきたみたい」(愛里さん)
自宅にいる頃は、食欲がほとんどなかった秀俊さんだったが、沖縄に来てからは、沖縄で行きつけのお店のタコスやソーキそばなど、沖縄グルメに舌鼓をうった。短いけれどもそうした日々が「帰る力」に繋がったのかもしれない。
ジューシーのおにぎり
「これだったら帰れそうだ。だけど、一日でも早く帰ったほうがいい」
これが医師の判断だった。
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