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「ステージ4の膵臓がん」父が沖縄で子に見せた姿 亡くなる13日前に敢行した7日間の大移動

東洋経済オンライン / 2024年5月31日 14時5分

無事、沖縄に到着した一行は、予約していたホテルに向かった。そこは秀俊さんがまだ元気だった頃、夫婦でハワイ旅行をした際に宿泊したのと同じ系列のホテルだった。そのホスピタリティの素晴らしさに感動し、娘たちにも体験させたいと、父たっての希望だった。

「確かに素晴らしいホテルでした。ウェルカムドリンクがとても美味しくて、長旅で疲れていた父も、うまいうまいって飲んでいました。そしたらホテルの人がおかわりを持ってきてくれて(笑)」(愛里さん)

沖縄での4日間、秀俊さんの医療的なケアをするのは、現地の訪問看護師である。担当するのは国頭郡にある『ひまわり訪問看護ステーション』の代表豊里泰子看護師だ。

ツアーナースは医療保険がきかない自費サービスである。沖縄に滞在中の4日間は、ツアーナースの細山看護師ではなく、医療保険が使える訪問看護に切り替えれば、それだけ費用を抑えることができる。これは日本ツアーナースセンターからの提案だ。つまり、沖縄にいる4日間は、細山看護師はオフということである。本来は自由に過ごしていいのだが、細山看護師にそのつもりはなかった。

「結局、向こうにいる4日間もびっちりお世話になりました」(愛里さん)

もしかしたら沖縄から帰れないかもしれない

沖縄滞在中の稲本秀俊さんの医療的なケアを担当する豊里泰子看護師の話。

「沖縄にいる4日間だけ、というご依頼には当初戸惑いもあったのですが、診療情報提供書などの書類もあるし、なによりツアーナースの細山さんがいてくれるということで、安心してお受けすることにしました」

そんな豊里さんが印象に残っていることがある。

「たしか2日目のことだったと思うのだけど、私が稲本さんの尿パッドの取り替えをやっているときに、奥様が手伝ってくれようとしたんです。すると、稲本さんは、“プロに任せなさい”っておっしゃった。私たち看護師の仕事に対して気を使ってくれているんだなって感じましたね」

もうひとつ印象的だったのは、ホテルのテラスから、海を眺めている稲本さんの姿です。本当に幸せそうに、ずっと眺めていらっしゃった。家族と沖縄に来ていることを、噛み締めているような表情でした」(豊里さん)

沖縄にやってきたものの、海に行ったり、観光地巡りをしたりする体力は、秀俊さんには残っていなかった。それでも、ホテルのレストランに家族で行き、自分は少ししか食べられない中、娘や妻が楽しそうに食事をしている姿を、見つめていた。

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