経済制裁が利かない?懐深いロシア経済のリアル 穏やかな日常生活、制裁でも世界とつながる経済
東洋経済オンライン / 2024年6月8日 8時0分
2024年春、ロシアを訪れた。コロナ禍前以来なので、4年ぶりの訪問となる。
ある程度予想はしていたが、街の様子はあまり変わっていなかった。モスクワで一番印象的だったのは、フードデリバリーの電動アシスト自転車が走り回っていたことで、歩道を歩いていて危険を感じるような場面もあった(写真)。
これは、もちろんコロナ禍の影響である。2022年2月のウクライナへの侵攻とそれに対する西側諸国などの制裁の影響は、街中ではほとんど感じられなかった。
注意深く観察すれば経済制裁の影響がないわけではないのだが、「街行く市民に困窮の色が見える」といった状況からはほど遠い、穏やかな空気であった。
さほど悪くない経済状況
対ロシア制裁が、多くの西側諸国の人々がウクライナ侵攻が始まった2年前に期待していたほど大きな成果を上げていないことは誰の目にも明らかになってきている。ここでは、そのことをさまざまな経済指標を用いて、あらためて裏付けていく。
以下、経済概況、対外貿易状況、財政状況、消費・家計といった順で概観し、制裁や戦争による影響を飲み込むロシア経済の懐の深さを描いていきたい。
まずは、経済が全般としてさほど悪くないということを確認しておこう。
2022年、ロシアは1.2%のマイナス成長を記録した。対ロ制裁が効果を上げたようにも見えるが、ロシア中央銀行が2022年4月に公表した経済見通しでは8~10%のマイナス成長を見込んでいたので、それに比べれば傷はずっと浅かった。
続く2023年は3.6%のプラス成長に転じた。もともとロシア経済は資源輸出に大きく依存しており、国際原油価格の下落は経済成長率の低下に直結していた。
ところが、2023年は史上初めて、原油価格が低下する中で経済成長率が改善するという異例の事態が起こった。後述するように、その背景には内需の拡大がある。
対ロシア制裁の内容をみると、ロシアを世界経済から切り離すことが1つの主眼となっているように思われる。
西側諸国による化石燃料などの輸入停止や輸入削減、第三国向け原油に対する上限価格(1バレル60ドル)の設定、軍用品を中心とした幅広い品目の対ロシア輸出規制、国際的な銀行間決済システムSWIFTからのロシア銀行の排除など、さまざま措置が取られている。
また、西側の多国籍企業の撤退も相次いだ。われわれが持つVISAやMasterといったクレジットカードもロシア国内では使えない。逆にロシア国内で発行されたこれらのクレジットカードは、ロシア国内では使えるが国外では使えない。
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