孫を皇太子にした道長を恨む"意外すぎる人物" 一条天皇は定子の子供も、後継者で揺れる宮中
東洋経済オンライン / 2024年6月23日 8時40分
NHK大河ドラマ「光る君へ」がスタートして、平安時代にスポットライトがあたることになりそうだ。世界最古の長編物語の一つである『源氏物語』の作者として知られる、紫式部。誰もがその名を知りながらも、どんな人生を送ったかは意外と知られていない。紫式部が『源氏物語』を書くきっかけをつくったのが、藤原道長である。紫式部と藤原道長、そして二人を取り巻く人間関係はどのようなものだったのか。平安時代を生きる人々の暮らしや価値観なども合わせて、この連載で解説を行っていきたい。連載第24回は、一条天皇の後継者選びで揺れる宮中と、孫を皇太子にした道長を恨んだ意外すぎる人物を紹介する。
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「横川の皮仙」と皮肉を言われた藤原定子
「横川の皮仙のようなものだ」
一条天皇と中宮の藤原定子の間に、第2子にして初めての男の子となる、敦康が生まれると、世間ではそんな陰口が叩かれたのだという。長保元(999)年11月7日のことだ。
「横川皮仙」(よかわ・かわひじり)とは、僧の行円の呼び名である。行円は比叡山の横川において、常に鹿の皮衣をまとって、巷で庶民に教えを説いた。
つまり「出家らしからぬ出家」という意味で、落飾して出家の身でありながら、一条天皇の寵愛を受けて子まで出産した定子のことを、皮肉を込めてそう呼んだ。藤原実資が日記の『小右記』に世間の声として記録している。
定子が出家した経緯を踏まえれば、周囲が困惑するのも無理はない。藤原伊周が弟の隆家とともに、花山院に矢を放ったがために(長徳の変)、妹の定子も責任をとり、自ら落飾。内裏を去ることになった。
だが、そのときすでに定子は身ごもっており、娘の脩子が生まれると、一条天皇の「定子に会いたい」という思いは止められなくなったようだ。
やがて、生後7カ月の赤子とともに、定子を「職曹司(しきのぞうし)」という中宮職の庁舎に呼び寄せている。内裏の東側に隣接する職曹司であれば、定子のもとに人目を忍んで通いやすいと考えたのだろう。
そのときですら、藤原実資は「天下、甘心せず(天下は感心しなかった)」「太(はなは)だ稀有なことなり(とても珍しいことである)」と不穏なムードを日記に書き記している。
それでも一条天皇は、世間の評判を無視して、定子を寵愛し続けた。その結果、第2子まで誕生することになった。それも男の子となれば、周囲のざわめきもより大きくなる。「横川の皮仙」といった定子を揶揄する声は、日増しに高まったに違いない。
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