移住10年の学者が推す「出会い」創れる意外な施設 定住者の増加に必要な「人間のつながり」
東洋経済オンライン / 2024年7月7日 10時30分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけではありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来の不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」(毎週日曜日配信)。第14回は「図書館が生み出す公共性」です。
私たちが小田原に引っ越した理由
私は神奈川県の小田原市という街に住んでいる。品川まで東海道線で70分。やや時間はかかるが、朝日を浴び、海を眺めながら本を読む。そんな快適な通勤生活を楽しんでいる。
この話をすると、必ず「どうして小田原に引っ越してきたのですか?」と聞かれる。
理由がないわけではない。私は、過労で倒れ、床に頭を打ちつけて脳内出血で死にかけたことがあった(連載第2回「脳出血で倒れた30代男性、自ら死を願った驚愕理由」参照)。当時、都内に戸建ての家を持っていたけれども、連れ合いとこれからの生きかたを話しあい、新しい土地での生活を選ぶことにしたのだった。
では、なぜ、小田原なのか?
地方出身の私と連れ合いにとって、方言があることはうれしかった。また、海や山が近く、豊かな自然と新鮮な食材に恵まれていたこと、箱根が近く、温泉を楽しめることもメリットだと思った。だが、だから越してきたのか、といわれると、少しためらってしまう。
まあ、そんなこんなで、越してきて10年が経った。最近思うのは、「なぜ小田原に移住したか」ではなく、「なぜ小田原に定住したか」のほうがずっと大事だな、ということだ。
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