それでもなぜトランプは熱狂的に支持されるのか 幸福な国は「怪物」を大統領に選んだりしない
東洋経済オンライン / 2024年7月10日 10時30分
南北戦争以来の「内戦」は起こるのか。ウクライナは見放されるのか。日米安保は破棄されるのか。
アメリカ・ウォッチャーの第一人者である会田弘継氏が、共和党全国大会を直前に迎えた今、『それでもなぜ、トランプは支持されるのか:アメリカ地殻変動の思想史』を上梓した。アメリカ政治に起きている地殻変動とは何か。同書の「序論」を一部編集のうえ、転載する第1回(全3回)。
「亡霊」としてのトランプ
ゴジラはなぜ、何度も何度も、日本に戻ってくるのか――そう問いかけた文芸評論家がいた。その問いから、繰り返し繰り返しつくられるゴジラ映画の持つ、深い意味を探っていった。
同じように問いかけてみるべきだろう。ドナルド・トランプはなぜ、またアメリカ大統領選に戻ってくるのか。そして、なぜ選ばれて、2大政党の一方の大統領候補になってしまうのか。そこから、現象としてのトランプの持つ意味を深く考えてみなければならないだろう。
ゴジラが繰り返し日本を襲うことの意味を探ろうとした文芸評論家は、次のことに目を向けた。ゴジラが南太平洋での核実験で放射能を浴び突然変異を起こした古代恐竜の一種であると気付いた古生物学者・山根博士は、怪獣の脅威を力で物理的に消滅させようとする方針に反対した。
「なぜゴジラのような存在が出現したのか。その「生命力」の不思議をわれわれは「研究」すべきだ、というのが彼の主張である」(加藤典洋『さようなら、ゴジラたち――戦後から遠く離れて』岩波書店、2010年、152頁。太字は筆者)。
第一作当時の映画の制作者らの発言を引けば、ゴジラは南太平洋での水爆実験に対する抗議の意味が込められた存在だ。
だが、多くの観客を動員し次々とつくられたゴジラ映画を作品本位でみていくと、それほど単純な話ではないことに文芸評論家は気付いた。戦後を通してゴジラが何度も繰り返し(すでに30回?)日本に戻ってくるのは、ゴジラが南太平洋をはじめ南方で無念の死を遂げた兵士たちの「亡霊(revenant=再来する者)」だからだ。ゴジラは、「戦争の死者」を表象している。戦死者の慰霊を含め、戦後の問題は何も解決できていない。だから、ゴジラは何度でも戻って、日本の観客の心に訴えかけるのだ、と。
とすれば、繰り返し戻ってきて、多くのアメリカ人の心情のどこかに訴え、熱狂的なまでに支持される、あるいは恐れられるトランプは、何の「亡霊(revenant)」なのか。
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