それでもなぜトランプは熱狂的に支持されるのか 幸福な国は「怪物」を大統領に選んだりしない
東洋経済オンライン / 2024年7月10日 10時30分
トランプは病因ではない、病状なのだ。原因ではない、結果なのだ、というのはアメリカを観察する者にとっては、いまではほぼ常識となっているはずだ。少なくともアメリカの学識者の間では共通認識であろう。ところが、どうも日本ではそのことがよく理解されていない。
「トランプが民主主義を破壊している」と、よく聞く。「民主主義」が「アメリカ社会・政治」、あるいは「国際秩序」といった言葉にも置き換えられる。メディアに登場する専門家や識者らの説明だ。
だが、どこかズレていないか。逆に、民主主義が壊れたから、あるいはアメリカ社会や政治、そのアメリカ主導でつくられた、自由で開かれたとされる国際秩序が行き詰まったから、トランプが登場したのではないか。そのトランプだけを力で押しのけようとしても、ムダかもしれない。
なぜトランプのような破壊的存在が出現したのか、その「生命力」の不思議をわれわれは「研究」すべきだ。山根博士の主張に即していえば、そういうことになる。あるいは、対症療法だけしてもムダだ。病因を絶たなければならないということになる。
「トランプが民主主義を破壊している」というような単純な話ではなく、トランプを生み出したアメリカの病とその原因を探らなければ始まらない。トランプという怪物は繰り返し戻ってくる。それはどんな無念を抱く、数多くの戦死者の「亡霊」(再来)なのか。
「忘れられた人々」に言葉を与えた
2022年に急逝した、優れたアメリカ研究者であった中山俊宏・慶應義塾大学教授は、トランプの奇矯な行動ばかりに気をとられると「その底流で起きている現象を見逃してしまいがちだ」と自戒を込めて、警鐘を鳴らしたことがあった。「現象の深度」に目が届かないかもしれない、と。
そして、トランプは「忘れられた人々」の間にとぐろを巻いて存在していた不満に言葉を与え、誰もが思ってもみなかった共振現象を起こしているとみた(中山俊宏『理念の国がきしむとき――オバマ・トランプ・バイデンとアメリカ』千倉書房、2023年、108-109頁)。
「幸福な国はトランプを大統領に選んだりしない。絶望している国だから選んだのだ」。トランプ派として、主流派(すなわち進歩派)メディアから袋叩きにされている元FOXニュースの政治コメンテーター、タッカー・カールソンが著書『愚者の船』(2018年、Ship of Fools:未邦訳)に記した言葉だ。「人々はトランプを選ぶことで、政治家やエリートたちに向かって『クソ食らえ』といっているのだ。それは軽蔑の所作であり、怒りの叫びであり、何十年にもわたった身勝手で英知もない指導者らの、身勝手で英知もない決定の帰結なのだ」。カールソンはこう述べたうえで、断固たるトランプ支持者となった(Tucker Carlson, Ship of Fools, Free Press, 2018, p. 3.)。
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