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リベラルが勝てない要因は「脳の仕組み」にある 人間の脳は加齢とともに「保守化」していく

東洋経済オンライン / 2024年7月12日 17時30分

記憶が徐々に消えていく、あるいは書き換わる仕組みが存在するのは、より良く生きていくためには自然で、当たり前のことだと言えます。

例えば、体験した危険な出来事を学習し、同様の事象を回避するための安全装置として記憶の仕組みが発達してきたのだとすれば、一定期間その危機がやって来なければ、その案件の重みづけを変え、優先順位を低く見直す仕組みが必要になります。

それよりも、高頻度かつ致命的な影響を与え得る危険の方を優先的に回避するべきで、なかなか起こらないことに記憶のリソースを割いていると、かえって重要なことに対応できず、危険な状態になってしまいます。

また、過去の失敗だけでなく、成功体験にとらわれやすくなるために、前例のないことには新しい挑戦をしにくくなります。

したがって、人間の能力の一部に過ぎない記憶力をことさら重要視する現代の教育や受験制度は、せっかく最適化されてきたはずの人類の生存戦略をかえってゆがめてしまっている可能性があるのではないかと思います。

テストでは高得点を取るために記憶力が高い人が有利になるのは確かですが、その結果をそのまま優秀であるかどうかのランク付けとして使うのはいかがなものかと思います。

テクノロジーによって補完される人間の記憶

というのも、テクノロジーの発達によって、不完全な人間の記憶力はどんどん補完されるようになってきており、実際にその仕組みは社会でも利用され始めているからです。

文字をパソコンやスマートフォンで打つようであれば、漢字の書き方を忘れても大きな問題にはなりませんし、そもそも人間の漢字記憶力は、パソコンやスマートフォンには絶対に勝てません。ならば、使用頻度がそれほど高くない漢字を覚えるより、素直に電子機器の恩恵にあずかった方がよさそうです。

警察は、逃げた犯人を追うとき、今や目撃者の情報だけでなく監視カメラを活用します。交通事故が起きれば、当事者同士の記憶に基づく証言よりも、ドライブレコーダーの映像の方が証拠能力として高く扱われるでしょう。

人間の不完全な記憶力を補完するこうした機器の性能を、私たちはすでに自分たちよりも優秀だと認めているわけです。このような機器の性能はこれからさらに高まっていくわけですから、優秀な人を見分ける基準として記憶力という尺度を使うのは、多くの人が同じように感じていると思いますが、すでに時代にそぐわなくなってきているのかもしれません。

中野 信子:脳科学者

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