安易に「共生社会」語る人に伝えたい"危うい盲点" 一方だけが得をする「寄生」になっていないか
東洋経済オンライン / 2024年7月14日 13時0分
そもそも<共に生きる>とはどんな状態をさすのだろう。質問に答えられずに悔しかった私は、何冊かの本を手にしてみた。すると、「共生」には、いくつかのバリエーションがあることがわかった。
1) 互いに利益を与えあう「相利共生」
2) 一方が得をし、他方に損得のない「片利共生」
3)一方だけが得をし、他方は損をする「寄生」
ルソーが「社会契約論」に記した答え
寄生も共生の一形態と聞いて少し驚いたが、要は、「利益」がどのように配分されるかによって共生の意味はまったく変わってしまう、というわけだ。
多様性を認めあう社会。みなが共に生きようとする社会。いずれもキレイだが、善意と良識に満ちた人間像だけでなく、「利益の配分」の問題を語れていないからリアリティがないのだろう……私はなんとなく合点がいった気がした。
「さまざまの利害の中にある共通のものこそ、社会の絆を形づくるのである。そして、すべての利益がそこでは一致するような、何らかの点がないとすれば、どんな社会も、おそらく存在できないだろう」
『社会契約論』にあるこの一節を思いだした。「私の利益」だけでなく、「みんなに共通の利益」を考え、それを実現するためにみなが汗をかく。だからこそ、1人ひとりが多様でありながらも、支えあい、共に生きる社会が生まれる。なるほど。さすがルソーだ。
一方だけが得をし、他方が損をするのは、寄生だ。この視点を、現実の財政問題に置き換えてみよう。
経済格差を批判する人たちは、高所得層や企業に重税をかけ、生活に困窮する人たちにお金を配ろう、と訴える。それが共に生きる社会のあるべき姿だ、と。
私はこの意見に賛成だ。だが、こうした政策は、高所得層や企業にとって、どのような利益があるのだろう。たんに取られるだけ、貧しい人たちがもらうだけ、だとすれば、<寄生という名の共生>に近づいてしまう。
戦後まもなくなら、貧困層の暮らしが安定すれば、暴動が起きない、支配層の地位が維持される、という説明はアリだっただろう。でも、絶対的貧困は過去の話になった。貧しい人もそれなりに生きていけるいまの社会で、この説明は受け入れられるだろうか。
あるいは、重い税をかけられれば、高所得層や大企業は、資産や住居を国外に移してしまうかもしれない。しばしば聞かされるこの脅し文句に、私たちは、耐えられるだろうか。
福祉の世界で起こっていること
もっと身近なところに焦点をあわせてみよう。
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