安易に「共生社会」語る人に伝えたい"危うい盲点" 一方だけが得をする「寄生」になっていないか
東洋経済オンライン / 2024年7月14日 13時0分
そうだ。私たちが「多様性を認めあい、共に生きようとする社会」をめざすのなら、負担者にも応分の利益があり、したがって「弱者」も堂々と生きられる、そんな<相利共生社会>の条件を考えなければならないのだ。
ルソーの言葉をもう一度思いだそう。何がこの社会を生きる人びとの「共通の利益」なのかを考えてみるのだ。
大企業に税を課すとしよう。税収を、例えば、義務教育の質的向上や職業訓練、職業教育の充実のために使ってはどうか。
そうすれば、貧しい家庭の子どもたちや、職をなくした人たちへの直接的支援となるだけでなく、労働者の質の改善は企業のメリットにもなる。これらはいずれも「経済的な豊かさ」という私たちに共通の利益をもたらす。
高所得層に税を課すとしよう。その税収を、例えば、福祉従事者の処遇改善、福祉専門職の養成に使うとする。
そうすれば、福祉の現場で働く人たちの将来不安の解消につながり、かつ、高所得層も含めたみんなの安心な老後の強固な土台となる。これらは「豊かな老後」という共通の利益にほかならない。
相利共生社会は「痛みと喜びの分かちあい」で成り立つ
消費税という税がある。この税であれば、貧しい人も、外国人も含めて、みなで痛みを共有することができるし、どんな高所得層だって、ものを買えば、必ず課税される。所得税とはちがって、金持ちの節税の余地は、ほとんどない。
このような痛みと喜びの分かちあいが成り立って初めて、私たちは、「相利共生社会」を作ることができる。
一人ひとりが価値を認めあい、自立して生きていく領域と同時に、何が私たちの共通の利益で、そのために必要なお金を誰に、どの税で、どれくらい課すのかを話しあう連帯の領域を作る。そうすれば、自分の幸せと他者の幸せを調和できる社会が誕生する。
近代国家は国民統合をめざしてきた。わかりやすく言えば、社会をひとつにまとめ、秩序を作ることが国家の責任、ということだ。
気をつけたいのは、国民統合には、財政という巨大な共同事業に光を当て、<相利共生社会>を作っていくやりかたとは別に、もうひとつ、教育やイデオロギーを通じて、思想的に国民をまとめあげるやりかたがあることだ。
戦時期のドイツや日本を思いだそう。政府は、最初、雇用の創出と生活の安定をうたって、財政支出を急激に拡大させた。これが独裁者や支配者たちへの信頼を強め、彼らの対外進出への野心を支持する足場となった。
第二次大戦が始まると、財政のほとんどを軍事費が占め、相利共生どころか、国家や軍需産業が国民に「寄生」することとなった。受益どころか、命さえをも奪われる国民を統合するために、軍国主義的な教育や思想統制を通じて人びとを力ずくでつなぎ止めた。
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