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「入ることがゴール」と若者が考えてしまう理由 自分が選択した人生をいかに肯定できるか

東洋経済オンライン / 2024年7月18日 13時0分

もう一つの意味は、実は自己投影でもあります。私はいわゆるポスドクといういろいろ不安定な身分のなか、自分は社会で胸を張って生きてはいけないんだろうな、という疎外感をもちながら過ごした時期がありました。私は正直、社会にあまり馴染めなかった人間なんです。今も、馴染めている自信はさしてありません(笑)。

その経験を通じて、どうやったら生きていけるのか再考したとき、安定した職を得ることは当然必要です。それは社会が設定した欲望とも一致します。「まともな人間は大学を4年で出て就職して、いい会社に入って、成長ややりがいを感じて」っていう。

ただ、大学が確実に就職予備校になりつつある現代で、映画監督の是枝裕和さんが「お気に入りの城」って表現されたような、個々人が、この城を守れていたら自分は大丈夫なんだと思えるようなことを、学問や教育は伝えることができるはずなんです。

舟津:仮にフーコーが大好きで、フーコーへの信頼があって、自分の中にフーコーが内面化されているなら、いかようになっても「フーコーがおればええねん」という気持ちで生きていけるんじゃないかなと。学問を信じる力が、その学問を修めた自分を信じる力になると思うんですよね。それは根拠のない自信かもしれませんが。

鳥羽:ビジネス化された社会は根拠のない不安をあおるけど、それなら根拠のない自信を持てばいいんだって、本の中にありましたね。

舟津:例えば厳しい部活動を乗り切ったから仕事ができるわけではない。でも、あんな厳しい経験をしたんだから自分は何とかなるだろう、と思えることってありますよね。そういう礎となるような信頼を、大学で教えられたら一番いいんじゃないかなっていう。理想論、希望論ですけど。

社会が設定した欲望以外の文脈ができる

鳥羽:学問の強みっていうのは、専門的な知識に触れることで自分がこれまで手にしていなかった新しい言葉や概念が入ってくることだと思うんですよ。親から譲り受けた言語圏にはない、新たな言葉が立ち上がる。こうして社会的な欲望や親の欲望とは別の文脈がつくられることが、結果的にその人の生きる支えになることがあるのでしょう。各学問における専門用語って、ステークホルダーとかゲゼルシャフトとかよくわからない言葉なのがいいですよね。そういう言葉がポンポン入ってくる、ということがポイントなんだと思います。

舟津:なるほど。たしかに高校までの人生というのは、必然的に親の欲望と社会が用意した欲望で生きていることが多い。だけど、やっぱり自分自身の欲望を見つける必要がどこかで生じて、そのヒントを大学が学問的な言葉という形で与えてくれるんですね。

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