大谷翔平が「世界一」と紹介"もちもち"ヨーグルト 岩手・岩泉ヨーグルト 誕生秘話と苦難を聞く
東洋経済オンライン / 2024年7月22日 10時0分
この危機を脱するため、岩泉町が町を挙げて取り組むことを決めたのが、町内で乳製品の加工までを行う、いわゆる「六次産業化」だった。
それまでは大手乳業メーカーに原料の生乳を販売し、生産者のもとにその売上が残るだけだった。しかし町内の工場で牛乳やヨーグルト、アイスクリームといった商品に加工すれば、新たな雇用が生まれるなどし地元の経済を活気づけるに違いない――。まだ六次産業化が珍しかった時代、岩泉町の取り組みは「起爆剤」として大きく報道された。
この一大事業に山下さんも農協職員として関わった。「私自身も岩泉の酪農が生き残るためには六次化しかないと思っていました」。酪農家の家々を回り、事業の必要性を説き、出資金を出してくれるよう頭を下げて歩いた。
2004年、岩泉町を筆頭に農協や酪農家などが出資した第3セクターとして岩泉乳業が発足。総工費約13億5700万円をかけて工場の建設も始まり、山下さんは社長から請われて「工場長」として新会社に加わった。
任されたのは、主力商品と位置付けた牛乳の生産。岩手だけでなく東京でも売れる牛乳を夢見て、町の担当者は会社設立前から東日本のスーパーでの販路開拓を狙ってリサーチを進めていた。
しかし、目論見は外れた。創業前は興味を示していたバイヤーとの交渉も、契約までこぎつけられず、販路が開けなかった。社内に流通やマーケティングに通じた社員はおらず、打開策が見つからないまま経営は悪化。町は公金を投入したが、2008年に創業時の社長が引責辞任すると、その後も3年間に4度も社長が交代する事態に陥った。
そんな2億8000万円の累積赤字を抱えた状態で、5代目社長に指名されたのが山下さんだった。2009年、町長室に呼び出され、決断を迫られた。「誰が見ても、もう私しかいない。自信はありませんでしたが、株主になってくれた酪農家の皆さんの夢をこのまま潰すわけにはいかない」。
偶然から誕生「アルミパウチ」のヨーグルト
2カ月ほど悩んだ末、心配する家族の反対を押し切って就任を決断。牛乳ではなく、ヨーグルトに特化する方針に舵を切った。当時、日本のヨーグルト消費量は欧米の3分の1と言われ、食の欧米化が進む中で市場規模の拡大が見込めると考えたのだ。
開発・商品化を急ぎ、乳酸菌を熟知した専門家の協力も仰いで、「岩泉ヨーグルト」は誕生。岩泉町産生乳を低温で長時間発酵させたヨーグルトは、酸味がなくまろやかで、どこに出しても恥ずかしくない自信作に仕上がった。
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