大谷翔平が「世界一」と紹介"もちもち"ヨーグルト 岩手・岩泉ヨーグルト 誕生秘話と苦難を聞く
東洋経済オンライン / 2024年7月22日 10時0分
中でも胸を打たれたのは、神奈川の介護施設で暮らし、通販でヨーグルトを購入している女性からの手紙。
「自分は高齢でいつまで食べられるか分からない。ヨーグルトを待ち望んでいる人たちのためにがんばってほしい」と達筆で記されていた。「全国に岩泉ヨーグルトを心待ちにしてくれている人がこれだけいるのだと知り、もう一度やるしかないと腹をくくりました」。
再建の可能性を模索し始めると、追い風も吹き始めた。国の災害復旧支援を受け、工場を被災前と同規模に復旧させる目途が立った。
「1年で再開させる」、そう決意すると、取引先を行脚し、復旧後の取引再開を取り付けるため頭を下げた。その間、社員は解雇せず、別の場所で製造を始めていたスキンケア商品の売上で当座をしのいだ。
「復興のシンボル」広がる販路
被災から13カ月後の2017年10月。生産再開を果たすと、「復興のシンボル」「奇跡の復活」とメディアでも大きく報じられた。再開直後に製造した商品を携えて、手紙をくれた女性が暮らす高齢者施設に足を運び、復活を報告した。発売当初はあれほど難航した販路開拓だったが、知名度が上がると取引を希望する企業は自然と増えた。
被災前は岩手県内での売上比率が高かったが、それが逆転し、県外の売上のほうが大きくなった。ヨーグルト発売時に掲げた「いつか全都道府県に岩泉ヨーグルトを」の夢は2023年、ついに実現した。
この間、山下さんは岩泉乳業のみならず、地域資源を活かした特産開発や道の駅の運営などを担う300人規模の岩泉HDを任されるようになった。当初予算が約100億円の岩泉町で毎年35億円を売り上げる岩泉HDは町の屋台骨だ。
被災から工場再開までスキンケアシリーズに救われた教訓から、ヨーグルト頼みにならない経営方針を掲げるが、一貫しているのは岩泉という土地にある資源を活かすことだ。
「地域の資源の活用とは、そこで生きる人たちに光を当てること。会社だけでなく生産者に光を当て、一緒に成長する。それが大手メーカーではなく私たちだから果たせる役割だと思います」。
【写真】経営難を救ったモチモチのヨーグルトは偶然生まれた(10枚)
手塚 さや香:岩手在住ライター
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