89歳の母を見送った家族に残った「清々しい記憶」 悲しみのかわりに残った"かけがえのないもの"
東洋経済オンライン / 2024年7月31日 9時0分
人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から切り離し、親の老いによる病気や死を、病院に長い間任せきりにしてきた。結果、死はいつの間にか「冷たくて怖いもの」になり、親が死ぬと、どう受け止めればいいのかがわからず、喪失感に長く苦しむ人もいる。
一方で悲しいけれど老いた親に触れ、抱きしめ、思い出を共有して、「温かい死」を迎える家族もいる。それを支えるのが「看取り士」だ。
ピースサイン画像と「余命告知」メールの落差
長野県で看取り士として活動する山口朋子さんは、知人の原山千寿子(ちずこ)さんから届いた写真とメールのあまりのギャップに一瞬驚いた。
【写真】娘が連れ出してくれる、施設からの一時外出時、車の中でスイカを車中で嬉しそうに食べる母親の笑顔
写真には、病院のベッドに横たわり、右手で弱々しくピースサインをする原山さんの母親(89)と、その傍らで白い歯を見せて笑う原山さんが写っていた。
ところが、続いて届いたメールには、「主治医から、母の余命は今日か明日だと言われました」と書かれていたためだ。
一方、原山さんは「母親と笑顔になる時間を入院先でも過ごしていたことを先に伝えたうえで、看取りが近いことを山口さんに知ってほしかった」という。もしもの時は、山口さんに母の看取りをお願いする気持ちでいた。2023年8月中旬のことだ。
山口さんは、同じ長野県内に暮らす原山さんとは約2年前から面識があった。だが、老人施設に入所中の原山さんの母親が入院したことは、初めて知った。
孫のマラソン大会の応援にくるなど元気だったころの原山さんの両親。入院中の一時外出で笑顔を見せる母親のカットも(写真5枚)
メール受信後に山口さんが電話をすると、原山さんの母親は約2カ月前から熱中症で緊急入院していた。ようやく平熱に戻り、退院に向けた話し合いをしようと思っていた矢先、新たに肺炎を発症。主治医から一転して「今日か明日か」と知らされたらしい。
「もうびっくりして、思わずメールしちゃいました」
原山さんは涙声まじりでそう話した。
母と娘がホッとできた月1回のドライブ時間
実家でずっと過ごしたかった母親を施設に入れてしまった……。
原山さんは2020年の秋以降、その後ろめたさをずっと引きずっていた。2男1女の3人兄妹で、長男は実家敷地内に家族と別に住んでいたが、一人暮らしの母親の面倒は、長男夫妻と原山さんが見ていた。次男は県外で暮らしていた。
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