89歳の母を見送った家族に残った「清々しい記憶」 悲しみのかわりに残った"かけがえのないもの"
東洋経済オンライン / 2024年7月31日 9時0分
「元気な頃の両親は、ジャガイモやネギを実家の敷地内に畑をつくって収穫したり、マレットゴルフ(木づちを意味する「マレット」と呼ばれるクラブを使うゴルフ)も一緒に楽しんだりして、仲がよかったんです。母は社交的な人でした」(原山さん)
約8年前に父親が他界。さらに約4年前に近所の仲良しだった女性が急逝すると、母親は体調の不安をたびたび訴えるようになった。
「近年は電話してきては、『腰が痛い』とか、『さみしい』と言って泣き出すこともあり、私が深夜に行って一緒に寝ることもありました」(原山さん)
エアロビクスのインストラクターとして日中働いている原山さんは、深夜の母親からの電話を、次第に心身ともに負担に感じるようになっていった。
「寒いから冬場の間だけお世話になって、春になったら実家に帰ろう」
原山さんはそう説得して、母親を老人施設に入所させた。
ところが新型コロナウイルスの感染再拡大期と重なり、入所以降の面会は一切禁止に。原山さんは自分を責めた。その後、血液疾患で長年通院している病院での検診を理由に、施設から許可を得て、原山さんは母親を施設から車で毎月1回連れ出していた。
「診察の前後に母の好物のスイカやミカン、せんべいなどを車中で食べてもらいました。母は毎回『今日はどこへ遊びに連れて行ってくれるんだい?』って、ずいぶんうれしそうで、とてもはしゃいでいました」(原山さん)
車内でスイカをタッパーからうれしそうに取り出そうとする、母親の写真が残っている。食べることが大好きな母親にも、母親の希望を尊重しきれなかった娘にとってもホッとできる時間だった。
母親を抱きしめて感じた懐かしい温もり
だが、冒頭の写真とメールが届いた翌日の午後9時すぎ、母親は旅立った。原山さんら家族は緊急連絡を受けて病院に向かったが、死に目には会えなかった。諸手続きをようやく済ませて入室したら、「たった今、お亡くなりになりました」と言われた。
病院はコロナ禍の厳戒態勢下だった。看取り士の山口さんも原山さんから連絡を受け、車で1時間超かけて到着して病院の駐車場で待機。原山さんの希望に応じ、主治医や看護師らが原山さんの車まで母親を運んでくれた。母親が肺炎で亡くなっていたからだ。山口さんも午前0時前に原山さんの実家に着いた。
山口さんは原山さん夫妻と長男夫妻に看取り士としての死生観を伝えた。「死に目に会える、会えないよりも、亡くなった後の本人の体の温もりとエネルギーを、家族がしっかりと受け取ることが大切」という前向きな考え方だ。
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