日本の最高学府・東京大学はどう変貌するのか 東大総長・藤井輝夫氏が「変革ビジョン」を語る
東洋経済オンライン / 2024年8月8日 12時0分
たとえば私は船舶工学科の出身なのですが、私が大学で学んでいた頃の船舶工学というのは、流体力学と構造力学と設計と建造といった、あるひとかたまりのディシプリンを学べば、船舶を造ることに関する必要十分な知識がある程度得られるようになっていたわけです。
しかし、その後コンピュータによるシミュレーションが出てきたことで、加速度的にデジタル領域が広がっていくなどして、やがて産業構造の変化と共に船舶工学は学科としてもなくなりました。今はシステム創成学科となりましたが、このような流れを見ても明らかなように、専門分野の流動化が起こっていて、インターディシプリナリーに学んでいくことがきわめて重要になりました。
ですから、たとえば、地球環境や気候変動問題について学ぼうと思っても、特定の分野だけを学んでも到底その課題を解決できなくなっているのです。
「知の爆発」時代の学問
堀内:たしかに、われわれが直面している深刻な課題に対して、1つの専門知識だけで解決することは難しくなっていますね。
藤井:インターディシプリナリティが重要だということと同時に、もう一つの観点として、いま「知の世界」において、ある意味で「知の爆発」が起きているということがあります。専門知がどんどん膨張して、たとえば学部の後半、後期課程2年半で特定分野の知識をすべて教えよう、あるいは学ぼうと思っても到底間に合いません。学んでいるそばから、次々と新しい知が生み出されていくのが現在の状況です。
そのような状況においては、ある体系を隅から隅まで学ぶというより、学び方自体が大事になってきます。自分自身の興味関心、あるいは自分の仕事上のプロジェクトでもいいのですが、そういうものに必要な知識のセットをいかにコーディネートして、ひとかたまりのものとして集めてきて、それをしっかり活用できるか。そのことで、新しいものを生み出していけるか、新しい仕組みをつくり上げていけるか、新しい提案を行うことができるか。このような学びのあり方が大事になってきているのです。
このような学びかたは、たとえば船舶工学のためにカリキュラムをつくったのでこれをやりなさい、というサプライサイドからの学びではなくなります。むしろ、ディマンドサイドから見て、自分がやりたいことからスタートして、そのためになにが必要かという観点から、複数分野にまたがる知識を集め、1つのコーディネートされた知の体系を築き上げていく。
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