BPOの大義はあくまで言論・表現の自由を守ること 元BPO委員「コンプライアンスにもほどがある」
東洋経済オンライン / 2024年8月10日 20時0分
放送界の自律機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)は、放送のコンプライアンスを考えるうえで、どのような存在なのか。「BPOの大義はあくまで言論・表現の自由を守ることにあり、より問われるべきは放送人の職業倫理であり、社会的な『常識(コモン・センス)』である」と筆者は定義づける。
BPOは裁判所ではない
BPOでの経験から、昨今の放送におけるコンプライアンスのあり方をどのように考えているかを書いてほしいというのが編集部からの依頼であった。
BPO放送倫理検証委員会(以下「倫理検証委員会」)委員の6年間に感じたことも書くが、これはBPOや委員のコンセンサスなどではなく、全体を通してあくまでも個人的な意見であることを最初に明記しておく。
さて、「BPOの議論で最も重視しているコンプライアンスの基準は、言論・表現の自由の尊重だ」と言うと、放送関係者から「ウソだろ」とツッコミが来そうだ。だが、事実である。
BPOは鵜の目鷹の目で放送局の粗探しをしているとのイメージを持たれているかもしれないが、権限の発動はむしろ抑制的である。倫理検証委員会では、意見書がまったく出されていない年もあるくらいだ。誤った内容を放送しても、それが重大な誤りではなく、番組内ですぐに訂正されていれば審議しないこともある。
倫理検証委員会であれば、審議されるのは、その誤りが放送倫理の「根幹に関わる」と予見される場合だけである。そして審議の結果、意見書に「放送倫理違反がある」と書いていても、「再発防止に取り組んでほしい」と結んでいるはずだ。
BPOの英語名にあるように、BPOはあくまで「番組『改善』(Program Improvement)」を促す機構なのである。
だが検証委員会の在任中には、BPOが番組や制作者に刑罰を課す裁判所のように見なされていると感じることが多かった。番組審議が始まったばかりで何も結論が出ていないのに、関係者を社内処分して担当から外したり、番組の打ち切りを決めてしまったりすることがあった。
そうするとその制作者や番組は、「やり直し」「改善」ができなくなってしまう。とりあえず社会的な批判をかわすことができればいいという判断なのだろうか、それは過剰反応だ。
「コンプライアンスにもほどがある」と言いたい。筆者は、むしろ意見書の結論は放送界や視聴者も含めた議論に開かれているとさえ考えている。
BPOの委員は意見書を出した後に、審議対象となった番組を制作した放送局の研修会に招かれることも多い。意見書の趣旨を説明し、放送局員と質疑応答を行う会である。
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