1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

亡き娘の部屋に父が見つけた、悲しみ絶えぬ詩歌 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・葵⑧

東洋経済オンライン / 2024年8月11日 17時0分

亡き娘の部屋に父が見つけた、悲しみ絶えぬ詩歌

輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。

NHK大河ドラマ「光る君へ」の主人公・紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。

この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 2 』から第9帖「葵(あおい)」を全10回でお送りする。

22歳になった光源氏。10年連れ添いながらなかなか打ち解けることのなかった正妻・葵の上の懐妊をきっかけに、彼女への愛情を深め始める。一方、源氏と疎遠になりつつある愛人・六条御息所は、自身の尊厳を深く傷つけられ……。

「葵」を最初から読む:光源氏の浮気心に翻弄される女、それぞれの転機

※「著者フォロー」をすると、連載の新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます。

悲しみがまたぶり返し

光君は、こうして引きこもったまま日を過ごしているわけにはいかないと思い、桐壺院(きりつぼいん)の元へ参上することにした。車を引き出し、先払いの者が集まりはじめると、悲しむ時を知っているかのように時雨がさっと降りはじめ、風が木の葉を散らして吹き荒れる。女房たちはいっそう不安になって、少しは紛れることもあった悲しみがまたぶり返し、みな涙でその袖を濡らすのであった。今夜はそのまま二条院に泊まるとのことなので、お付きの者たちもそちらで待とうと、みなそれぞれに出かけていく。今日を限りに光君が来ないなどということはないだろうけれど、みな一様に悲しみに暮れる。左大臣も母宮も、今日、光君が出ていくことに、また深い喪失感を味わうのだった。母宮に宛てて光君は文を送る。

【図解】複雑に入り組む「葵」の人物系図

「院が、どうしているかとおっしゃっておられますので、本日そちらに参ることにいたしました。ほんの少し外出するにつけても、あんな悲しみの中、よく今日まで生きながらえたものだと胸を搔きむしるような思いでございます。お目に掛かってご挨拶するとなおのこと悲しみがこみあげてきそうですので、そちらへはお伺いいたしません」

とあり、母宮は流す涙で目も見えないほど泣き、返事を書くこともできないでいる。左大臣がすぐに光君の元に来る。こらえきれないように袖を顔に押し当てて離すことができない。それを見ていた女房たちもさらに悲しくなるのだった。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください