「陰湿な宮廷に嫌気」紫式部が決意した"キャラ変" リスクがあるにもかかわらず彰子に極秘講義も
東洋経済オンライン / 2024年8月25日 9時30分
岩間を閉ざした氷が解ければ水に影が映るように、私に心を開いてくれない方々が打ち解けてくれれば、御所にお伺いしないはずがありません――。そんな意味になる。慣れない宮仕えでよほど嫌なことがあったのだろう。
出仕を催促されても簡単には応じなかった
元旦から数日が経つと、中宮から「春の祝歌を贈るように」と、式部のもとに要請があった。実家に退散してから、まだ出仕していなかった式部は、自分の家から次のような和歌を贈っている。
「み吉野は 春のけしきに かすめども 結ぼほれたる 雪の下草」
(吉野は春の景色にかすんでおりますが、雪に覆われて地にはりつく下草のように沈んだ気持ちでいます)
ずいぶんとお祝いムードからはかけ離れた和歌を贈ったものだが、春が来てもまだ出仕する気にはなれない、自分の心情が反映されている。
3月になっても、依然として宮中に顔を出さないでいると、こんな歌が贈られてきた。
「憂きことを 思ひ乱れて 青柳の いとひさしくも なりにけるかな」
(嫌なことに思い悩まれて、里下がりが青柳のように長くなりましたね)
実家に帰ってから、もうずいぶん時が経ってしまっていますね……と、式部に宮仕えを促している。
それに対して、式部は「つれづれと ながめふる日は 青柳の いとど憂き世に 乱れてぞふる」と返答。
することもなく、長雨の降る今日のような日は物思いに耽って、いっそう辛くなる世の中に、柳の枝のように思い乱れて過ごしております……と、精神状態はますますよくないと伝えている。
さすがに度が過ぎているんじゃないかと、式部に「かばかり、思ひくしぬべき身を、いといたうも、上ずめくかな(ずいぶんと貴婦人ぶってるのね)」と批判してきた人もいたが、それでも式部の心は動かない。こんな和歌を詠んでいる。
「わりなしや 人こそ人と いはざらめ みづから身をや 思ひすつべき」
仕方がないことだ、あの人たちは私を世間並みの人だとは言わないだろうが、みずから我が身を見捨てることはできない――。
実家に逃げ込んだ状況から、頑として動かなかった式部。内田百閒の「イヤダカラ、イヤダ」を思わせる、この意思の強さがあったからこそ、式部は未曽有の長編物語を書き続けることができたのだろう。
「私は何もわからないです」作戦
それでも秋頃までには、式部は再び出仕するようになった。数カ月も実家に引きこもっていたことになるが、その間に自分の身の振り方を考えたらしい。
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