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「陰湿な宮廷に嫌気」紫式部が決意した"キャラ変" リスクがあるにもかかわらず彰子に極秘講義も

東洋経済オンライン / 2024年8月25日 9時30分

『紫式部日記』には、多数の女房たちと暮らしていれば言いたいこともあるけれども、「心得まじき人には、言ひて益なかるべし」つまり、「言ってもわからない人に言っても、何の得もない」と達観した胸中を明かしている。

そして「ほけ痴れたる人(ぼけて何もわからない人)」になりきったと、バカなフリをして周囲を欺くことに決めたのだという。

その効果はテキメンで、皆からは「かうは推しはからざりき(あなたがこんな人だとは思いませんでした)」といい意味で言われたようだ。

以前は式部に対して、みんなでこんなふうに思い込んでいたと打ち明けている。

「ひどく風流を気取っていて、近づきがたくてよそよそしい態度で、物語好きで由緒ありげに見せ、何かというと歌を詠み、人を人とも思わず、憎らしい顔で見下す人に違いない」

これには式部も「そこまで警戒されていたのか……」と内心、愕然としたことだろう。こんな好奇な視線に晒されたならば、式部がいきなり出仕できなくなったのも、無理はない。

やむなく「キャラ変」したことについては「人にかうおいらけものと見落とされにけるとは(人からこんなふうにおっとりとした性格だ、と見下されるようになったか)」と、式部としては忸怩たる思いもあった。

それでも「ただこれぞわが心(これこそが自分の本当の顔なのだ)」と言い聞かせることにしたという。復帰の裏には、並々ならぬ努力があった。

だが、そんな式部の「おっとりキャンペーン」を邪魔する人物もいた。

以前から式部を目の敵にしていたという左衛門の内侍は、『源氏物語』を書いている式部には『日本書紀』の教養があるんだと、殿上人にわざと言いふらして「日本書紀講師の女房様」というあだ名をつけて、イジっていたという。

屏風に書いてある漢文も読めないフリをした

本当に悪気があって言ったかどうかは判然としないが、少なくとも式部は迷惑だったらしい。「一」という漢字の横棒さえ引くことを控えて、屏風に書かれた漢文も読めないフリをしていたというから、徹底している。

けれども、中宮の彰子は、教養のある一条天皇に振り向いてもらおうと、式部から漢文を教えてもらいたがったようだ。式部に唐の詩人・白居易の『白氏文集』を読ませたりもしていた。

彰子のそんな思いは式部も無碍にはできなかったのだろう。人目に付かないところで、彰子にこっそりと『楽府』(新楽府)の2巻をテキストに講義を行うようになった。

式部からすれば、周囲にバレないかとヒヤヒヤしたに違いない。だが、同時に、自分を偽らなくても受け入れられる空間は心地よくもあったはず。

「漢文を学びたい」という彰子と対峙するときだけは、式部は自分らしくいられたのではないだろうか。
 

【参考文献】
山本利達校注『新潮日本古典集成〈新装版〉 紫式部日記 紫式部集』(新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
倉本一宏編『現代語訳 小右記』(吉川弘文館)
源顕兼編、伊東玉美訳『古事談』 (ちくま学芸文庫)
桑原博史解説『新潮日本古典集成〈新装版〉 無名草子』 (新潮社)
今井源衛『紫式部』(吉川弘文館)
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)
関幸彦『藤原道長と紫式部 「貴族道」と「女房」の平安王朝』 (朝日新書)
繁田信一『殴り合う貴族たち』(柏書房)
倉本一宏『藤原伊周・隆家』(ミネルヴァ書房)
真山知幸『偉人名言迷言事典』(笠間書院)

真山 知幸:著述家

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