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「高校野球マンガ」50年の大変化に納得の理由 「プレイボール」「おおきく振りかぶって」そして令和は?

東洋経済オンライン / 2024年9月1日 13時0分

『キャプテン』でもそうだったが、谷口の並外れた努力家ぶり、どんな強豪相手でも、どれだけ劣勢でも決してあきらめない勝利への執念がすごい。打撃での貢献はもちろん守備でもバウンド送球なら投げられるようになり、それを捕球する練習によってチームの守備力も上がるという好循環。今までなら「負けて当たり前」と思っていたナインも、谷口の熱意にあおられて、真剣に野球に向き合うようになる。

野球エリートではない、普通の高校生たちが力を合わせて勝利をめざす。もちろん魔球や秘打は出てこない。一方で、成功体験が自信とやる気につながり、短期間にめきめき力をつけるというのはままあること。墨高をナメてかかった相手が思わぬ先制パンチを食らい、そのまま立て直せずに大敗するといった番狂わせも高校野球では起こりうる。そうした点も含め、当時としては画期的かつリアルな高校野球マンガだった。

とはいえ、そこはやはり昭和のマンガ。ベースにあるのは根性論だ。誰かに強制されたわけではないが、谷口の猛練習は常軌を逸したレベル。試合ではぶっ倒れるまで投げ続ける。そもそも骨折しているのに投げ続け、しかも試合後病院にも行かなかったのが指が曲がってしまった原因というのだから何をかいわんや(その指はのちに手術で完治する)。

練習中に水を飲んではダメという描写もあり、現在の常識から見ればありえない。しかし、社会人となった元キャプテン・田所の差し入れのアイスをみんなで食べるシーン、強豪校に勝ったごほうびにカツ丼(本当はうな丼の約束だったがお金が足りずカツ丼に変更)をおごってもらうシーンなどは、すこぶるうまそう。そんな素朴な生活感も魅力である。

平成の名作『おおきく振りかぶって』

昭和の名作としては『タッチ』(あだち充/1981年~86年)も忘れられない。前作『ナイン』(1978年~80年)も含め、あだち充の描く「熱血しない野球マンガ」は、ひとつの革命であった。プレーや勝利に重きを置かない“青春の1ページ”としての野球は、明るく軽いノリをよしとする時代の空気にもマッチした。

平成に入ると、熱血スポ根はますますダサいものとなる。そこに登場したのが、ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』(2003年~)だった。

舞台は埼玉県のとある高校。できたばかりの硬式野球部に集まったのは、弱気で卑屈な投手・三橋、クールでクレバーな捕手・阿部、天然ボケの強打者・田島など、ちょっとクセのあるヤツばかり。そんな新設チームを率いるのは野球狂の怪力女監督……と、そこまでならば珍しくない。確かにそれぞれのキャラは立っているし、異常なまでに卑屈でそのくせ強情な三橋のキャラは野球マンガとしては新鮮だが、クセのあるキャラなら今までにもいた。

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