投資家も誤解、安易な配当増が企業をダメにする そもそも成長企業は配当しないことが理にかなう
東洋経済オンライン / 2024年9月5日 7時0分
このように「①<②<③」となったのは、難易度の違いによるものです。「①新事業・新商品の創造」は、イノベーションを起こし、世界のライバルに打ち勝つことを意味し、容易ではありません。一方、「③株主還元」は株主総会で決議するだけなので、実に簡単です。
つまり、誰でも簡単にできる「③株主還元」に注力し、難易度が高い「①新事業・新商品の創造」を避けたというのが、この10年間の日本企業の「改革」の中身だったのです。
ここで、株主・投資家からは、「新事業を造ろうが、配当を増やそうが、結果的にROEが改善し、株価が上がればいいのではないか」という声が聞こえてきそうです。
しかし、配当など株主還元の強化は、必ずしも株主にとっていいことではありません。むしろ、マイナスが大きいのが真実です。これは、日本の投資家の多くが誤解している点なので、説明しましょう。
株主還元は株主にプラスとは限らない
まず、純粋な理論の世界から。税金や取引コストが存在しない完全市場では、配当の多寡は株主にとって損も得もありません(ノーベル賞を受賞したモジリアニとミラーのMM命題)。当期純利益はすべて株主のものなので、それを今すぐ配当しようが、内部留保して将来配当しようが、支払う時期の違いにすぎないからです。
では、税金や取引コストが存在する現実の世界ではどうでしょう。配当が出ると大喜びする個人投資家が多いと思いますが、機関投資家は困惑します。配当が振り込まれる預金口座は利息がほぼゼロなので、どこかに再投資しなければいけないからです。
日本では、受け取った配当に所得税が課せられます。投資家は所得税が控除された配当で、次の投資先を探すわけです。
もしもその企業が成長しているなら、社内に旺盛な資金需要があります。株主にとっては、配当を受け取ってその資金を再びその企業に投資するよりも、企業が配当せず、内部留保した資金をそのまま活用して株価を上昇させてもらったほうが効率的です。
もしもその企業の成長がストップし、衰退に向かうなら、内部留保した株主の持ち分を赤字で食いつぶしてしまうでしょう。株主にとっては、そうなる前に配当を引き出し、別の成長企業に投資したほうが効率的です。
つまり、現実の世界では、成長企業は配当をしない、衰退企業は配当をする、というのが正しい配当政策です。成長企業において配当は株主にとってマイナスで、衰退企業においてのみ配当は有効です。
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